第16話 依頼
商人の男を捉えた翌日。
シェリアたちが借りている小屋に村長が訪れていた。
「で、頼みというのは何かしら?」
床に座り込み、大きく頭をさげる男にシェリアはあえて尊大な態度で問いかけた。
彼の頼みの内容は分かっている。それは、シェリアの想定している通り盗賊討伐だろう。
村人たちに盗賊たちと戦う力はない。けれど、商人の男という頭を失った今、この村にとって数少ないチャンスが訪れているといっても過言ではないのだ。
そして、彼ら、彼女らは少なくない数の盗賊たちが捕らえられているのを見ている。
このチャンスを逃したくないというのが村の総意だろう。
「単刀直入に言わせていただきます。この地にある盗賊の討伐をお願いしたい」
「理由を聞いても?」
「……聞き取りをした結果、盗賊の拠点の位置が分かりました」
「嘘の可能性は?」
盗賊と繋がっていたのだ。その情報が偽りである可能性が十分にあり得る。
シェリアがそう問うと、村長は首を横に振った。
「可能性はあります。でも、私たちにはこれしか選択肢がないのです」
村長の言っていることは正しい。
今はまだ男が捕らえられたという情報が盗賊に渡っていないので大丈夫だが、この情報が伝わってしまえば盗賊たちは独自に動き始めるだろう。
そうなれば、襲われるのは拠点から近隣にある村だ。
そして、男というブレーキ役がいなくなった結果、待っているのは皆殺しという結末であるという可能性もあり得る。
答えはほぼ決まっているようなものではあるが、独断で決めるわけにもいかない。
シェリアは村長から目を離すと、隣で話を聞いていた三人へと目を向けた。
「どうかしら?」
「いいんじゃないか? どのみち見捨てる選択肢は無いし、そのつもりもないだろう?」
「そうっスねぇ……最近退屈だったんで、楽しいことは歓迎っスよ」
「村の皆さんにはお世話になりましたし……」
おおむね賛成してくれるようだ。
それに、セシルの言葉にも一理ある。
彼女が話しながら向けた視線の先、そこには少しだけではあるが食料が積み上げられていた。
「さすがにこんなに貰ってしまっては断れませんよ」
セシルの微苦笑。
それは、彼女らしい裏表のない笑みであったが、村人からしたら盗賊たちを討伐してもらうための賄賂にのようなものだ。
とはいえ、シェリア自身肯定派のため否定する必要は無いのだが。
「わかりました。請け負いましょう」
「感謝します」
「で? 盗賊たちの拠点は?」
「ここから半日ほど歩いたところにある洞窟です」
「けっこう近いな……」
意外そうに言葉を漏らしたのはアインだ。
だが、それはシェリアも感じたことではある。
「そうね……他の村がどの程度離れているかは分からないけれど、ここまで近いのは意外だったわ」
おそらくはこの近辺……つまりはこの村を含めた、いくつかの村を襲える位置に拠点を構えているとは思っていた。
そして、そんな拠点をいくつか配置して、商人が各地の拠点を回ることで安全に物資の取引をする……それがあの男が取っていた手段なのだろうとも。
「そんな関係ないっスよ!」
シェリアが顎に手をやっていると、不意に赤い髪を揺らしてアリサが足を投げ出した。
行儀の悪い仕草にセシルが咎めるような目で見るも、彼女はどこ吹く風。伸ばした足を組んで獰猛な笑みを浮かべる。
「結局は全員とっちめればいいんスよね? だったら私一人行けば十分っスよ!」
「ダメです」
「なんでっスか!?」
即座に否定された自身の提案に、アリサは声を荒げる。
だが、これにはシェリアもセシルと同じ意見だ。
「これは私たちが受けた依頼なの。そして、この話は私が代表として受けた話だわ。だから勝手は許さないわよ」
「そうです! というか、あなたが一人で行くとやり過ぎてしまうでしょう! だからダメです!」
「はいはい……分かったっスよぉ……」
二人にたしなめられて、あえなく撃沈したアリサ。
彼女が退屈だと言わんばかりに寝転がると、代わりにアインが口を開いた。
「それで? いつ出発するんだ?」
これこそ、村長がずっと待っていた言葉だったのだろう。
赤髪の少女が起こした一幕の間ずっと困り顔だった村長が、パァと輝いた目をアインへと向けた。
そんなやり取りを見ていたシェリアは「そうね……」と、答えるのに数秒の時間を要してから。
「明日の早朝に発ちましょう」
そう、はっきりと言い放ったのであった。
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