第14話 大本を叩く ①
「これでだいたい集まったっスよ~、あとは村長さんくらいっスね」
翌朝。
アインとアリサの二人が声をかけ周り、村人たちがシェリアの前に集められていた。
「いったい何なの?」
「おい、これから畑仕事があるんだぞ」
日が上ったばかりの時間に声をかけられ、半ば無理やりに集められた村人からは不満の声が上がっている。
シェリアはそれらを無視し、口を閉ざしたまま動かずにいた。
「お待たせしました」
「うん? なんでこんなに集まってるんだ?」
やや遅れてやってきたのはセシルとエルの二人組だ。
シェリアは彼女たちを一瞥すると、閉ざしていた口を開く。
「これで全員かしら?」
「いや、村長の息子は体調を崩して寝ているらしくて来ていない」
「そう、わかったわ」
全員でないのは惜しくはあるが、最低限の人間は集められている。
シェリアはアインの言葉に小さく頷くと、不満げな眼差しを隠そうともしない村人たちを見渡した。
「早朝から申し訳ないわね」
「それはいいんですが……
おずおずと口を挟む村長。
彼の一声に合わせて村人たちの視線がシェリアへと集まり、彼らの文句も止まってしんと静まり返る。
「昨日、私たちは盗賊に襲撃されたわ」
「なっ——!?」
「全員返り討ちにしたけれど、集まってもらった理由はこれね」
目を丸くして驚く村長に事情を説明すれば、わずかな時間を置いて年相応に威厳を保った表情へと変わった。
「……それで? 盗賊たちは……?」
「私たちの借りている小屋に押し込んであるわ」
早朝に動いた理由の一つがこれにある。
シェリアが村人に集合をかける前に、盗賊が倒されていることを知られるわけにいかなかったのだ。
失敗を悟られる前に、こちらから逃げられないようにする。
それが、シェリアが早朝からアインとアリサの二人に動いてもらった理由だ。
「そうですか……それは申し訳ないことを……」
「いえ、気にしなくていいわ。こうして全員無事なのだから問題ないわよ」
シェリアが首を横に振れば、村長はあからさまにホッとした表情を見せる。
だが、これで話は終わり……というわけではないのだ。
「貴方たちに集まって貰ったのは、この中に内通者……いえ、首謀者がいるからよ」
「は?」
「おかしいと思わないのかしら? この村には盗賊の襲撃に対応する力はないわ。なのに、なんで子供が無事でいるのか」
「どういうことだ!」
村人の一人から声が上がる。
「脅威になれないのであれば、その先に待っているのは皆殺しか飼い殺しよ。そして、飼い殺しにするのであれば見せしめや人質が一番効果的だわ」
脅威がないといっても、襲う以上は敵対してくる。
それを防ぐには見せしめに誰かを殺してしまうか、子供を人質にしてしまうのが手っ取り早い。
「当初は亡くなった人間がいるけれど、ここ最近の被害は作物のみ。襲撃自体も畑が主で、人への被害は殆どない。その上、飢えてはいるけど餓死する人間は出ていない。ここまでくれば、誰かが糸を引いていると見るべきでしょう」
シェリアが言い終えた途端、村人たちがガヤガヤと騒ぎ始める。
そんな中で、真っ直ぐにシェリアの真意を探るように見つめるのは村長だ。シェリアは彼の視線を受けると、その眼差しをシェリアたちに盗賊をけしかけた大本へと向けた。
「そうでしょう? この村唯一の商人さん?」
「……ああ?」
シェリアの言葉に、商人の男は苛立ったように眉を寄せた。
「なんで俺がそんなことをしなくちゃいけねぇんだよ……?」
「それは分からないわ。興味も無いしね……私は現状から貴方が盗賊と繋がっていると告げているだけだもの」
言い切るシェリアに、村人たちの視線が集中する。
その視線は疑惑と困惑が大半だった。当然だ。自分たちは余所者で、逆に彼は以前から村を支え続けた功労者なのだから。
だが、だからこそ、村人たちは気付けない。気付くことが出来ない。
「最初に気になったのは足跡よ」
「足跡だぁ?」
「ええ、この村は盗賊に荒らされているわ。その被害の大半が畑に集中している。そして、私が気が付いたのは貴方の畑と他の畑の足跡の差よ」
シェリアは一呼吸置くと、その視線を商人の家の方向へと向ける。
「まず、盗賊とこの村の住人では履いているものが異なるわ。盗賊たちは森の中を移動するから、丈夫な革製の靴を履いているのはすでに確認済みよ。対して畑作業中心のこの村では植物性のものが中心で、狩りで得た皮は貴方のところに売られている」
「……まあ、大事な収入源だからな。で? それの何がおかしいんだ?」
「両者の足跡には明確な差があるの」
動物の皮を
また、革靴の方がしっかりと足跡が残るというのもある。
植物性のものよりも固い革靴の方が、よりしっかりと足跡が残るのだ。
「貴方の畑も踏み固められてはいたけれど、他の畑とは違って革靴による足跡が無かった。これが、私が貴方を疑うようになった切っ掛けよ」
「…………」
真っ直ぐにシェリアに見つめられ、商人の男は口を引き結ぶ。
しかし、しんと静まり返っている両者の間とは違って周囲は騒がしくなっていた。
「え? 本当に……?」
「いや、出まかせじゃないのか?」
全員ではないが、男の方にも疑惑の声が上がっていた。
だが、割合としてはまだまだ少ない。まだ信用するには証拠が少ないといったところだろう。
「……お前の言い分は分かった。だがな、俺の店は村の中心にあるんだ。その分被害が少なくなるのは当然だろうが」
自身に疑いがかかっているのを自覚しているのだろう。男は顔をわずかに歪めながらもシェリアの弁に反論をする。
同時にシェリアへと向く村人たちの疑惑の眼差し。
たしかに、男の言っていることは正しい。
村の外から盗賊が襲ってくる以上、外側の方が被害が出やすく、内側の被害が少なくなるのは当たり前だ。
だが、シェリアの持つカードはこれだけではない。
「私が言っているのは貴方の畑に皮靴の足跡が無かったということなのだけど……まあいいわ。じゃあ違う話をしましょう」
「……あ?」
あっさりと引き下がったシェリアに男が声を漏らす。
その姿を見て、シェリアは口元に笑みを浮かべて言い放った。
「足跡は切っ掛けと言ったでしょう? 私が貴方を疑うに至った証拠はまだあるわ。貴方がどれだけ言い逃れできるか見ものね」
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