エピローグ2 『踏み出した足の感触、感じる草花の匂い』




 知識とは、すべてに通じる武器。


 敵を刺す刃となり。

 物を買うための金にも成り代わる。


 そんな……何にでもなってしまうもの。


 ——そう信じていた。


 だって、それが常識だったから。

 そう教えられてきたから。


 知識は王国を支え、王国は繁栄を極める国として押し上げられた。


 それは、国の力ではない。

 でも、国の力でもあるのだ。


 なぜなら、王国に所属する少女の力なのだから。


 ——そう、教えられてきた。


 それが当たりまえで。

 それが普通だった。

 

 なのに、それを是としない人がいた。


 彼は言ったのだ。


 ……王国は一人の少女の犠牲に成り立っていると。


 その意味は、いまだに完全に理解したとは言い難い。

 だって、知らないことだったから。


 無知は怖い。

 未知は怖い。


 知らなければ脅かされる。

 先が分からない暗闇は、やっぱり怖い。


 小さな鳥籠の中に居れば幸せでいられた。


 たとえ、本という紙で翼を塗り固められてしまっていようと。


 知識という餌を与えられ。

 鳥籠の中では自由だった。


 なのに、彼は鳥籠を開けて飛び立て——そう言うのだ。


 開けられた扉の外は暗闇。

 何も見えず、何が起きるか分からない。

 そもそも、紙の翼では羽ばたけない。


 でも、それはただの錯覚だった。

 もしくはただの思い込み。


 鳥籠の外は澄んだ空気で満たされて。

 鳥籠の外は綺麗な景色に満ちていた。


 翼など、何であったって飛び立てる。


 全ては自分の想い次第なのだ。


 踏み込んだ草の感触が。

 感じる草花の匂いが。


 私を、鳥籠の鳥に外へ飛び立てたと実感させる。


 そう、自由だった。

 不自由にしていたのは自分だったのだ。


 だからもう戻れない。

 未知に怯え、無知に恐怖し、知識に依存していた私には。


 未知とは、まだ知らないということ。

 無知とは、知識が無かったということ。


 ただ、人間は学ぶことが出来る。


 未知を既知に。

 無知を既知に。


 いくらでも変えることが出来るのだ。


 鳥籠の外を知った。

 羽ばたけると知った。


 だから、私は世界を巡る。


 様々な事を経験し。

 色々な事を学んで。


 そうして、世界を巡った先で。


 私はその道筋を振り返ろう。

 きっと、そのとき私は笑えているはずだから——

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る