燃える昼

パチパチと火種が弾ける音を聞いて、そういえばあの時、自分が死んだ時も辺り一体が燻って燃えていた事を浜万は思い出した。

目の前に広がる山の曲線は子供の頃から嫌という程に見てきたものだ。何処にでもあるような山里だが自分たちが幼少期を過ごした場所であるためか馴染みは深く、何でもない土の匂いでさえ知っているように感じる。

その故郷、と言っても畑の一部でしかないがつい先ほどそこに火を点けた。雨上がりで湿った生の草葉は思ったより手際良く燃えはしなかったが、かろうじての炎でも油を注いでやればそれなりに育つ。

やがて煌々と燃え盛るまでに大きく広がった炎がゆっくりと進み、畑を燃やしていく。黒い煙は布袋から発していたにおいの何十倍も強くむせかえるような臭気をそこらじゅうに漂わせ、故郷のにおいをあっという間に上塗りする。

実際に目にしてみれば、布袋の中身の原料となる草は里周辺でよく見かけるありふれたものだった。

この谷間にひっそりと佇む収穫地をひとつ減らしたところでどうということはなく、似たような場所はそこらじゅうに作られているし、まず草自体があちこちに自生している。ここが燃えたとて、草はあくまで里がかき集める子供に対する調教のうちのひとつで、それそのものが無くなるわけではない。


「……なんでわざわざ里に帰ってまで、こんな事したかった訳?」


浜万の言葉に巨漢の忍は振り向かず、まだ火の手が迫っていない畑の茂みでぶちぶちと手持ちぶさに青い草を引き抜き続けている。

やがて飽きたのか、ある程度育った長さのある草はそこらにまとめて投げ捨て、まだ頭を出したばかりの若芽でさえも摘んではそこらじゅうに放り捨てている。

そんな事を続けているうちに丸眼鏡には風に飛ばされる煤がこびりつく。服の裾で拭きながら、おもむろに答える。


「グフフ、スッとするような嫌がらせがしたかっただけでござるよ」


だと思った、と浜万は呟いた。この男の言葉の裏を読み取るのも最早馬鹿馬鹿しかった。

10数人もの気配が包囲の陣を取りつつ猛烈な勢いで近づいて来たのを感じ取った。中には顔見知りの忍びもいるような気がするが、特に問題はない。飛び道具含めて武器は最低限の用意しかなく大人数を相手に戦うには厳しい装備だったが、この局面を切り抜ける事への懸念など微塵も無かった。

自分の背後に立つ憎く腹ただしいこの男がいる限りは。 


「正面の5つ、右の方に3つ、こっちは俺がやる。あとはオタクくんが全部やってね。わざわざ争いを生んだ責任を取って」

「なんか勘定が雑ですなあ〜!拙者と手柄の数勝負しなくていいのでござるか?」

「こんなの幾つ獲ったってどうでもいいよ。俺が心から八つ裂きにしたいのはオタクくんだけだからね」

「フヒヒッ 浜万どのから超巨大感情いただきました〜ありがとうございま〜〜す」

「ほざいてんじゃねーぞ」

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