第14話 村

 目的地まで、みんなで話しながら普通に歩いているが黒いアイツ――トネコ様は現れない。なんでだ?と思い、周囲をキョロキョロ見回しているとジョニーさんが俺の考えていることを察したのか笑いながら言って来た。


「トネコ様なら現れねえよ。今はな。なんせ今から自分の元へわざわざ来てくれるってんだから、待てばいいだけだろ」


 下宿先——結界から出た時点でトネコ様には既にバレている。そして、それが自分のところへ向かっていることもわかっているそうだ。

 ケイはぼんやりとしかトネコ様の姿が見えないと言っていたが、ジョニーさんは見えるのだろうか?村の血筋じゃなくても、霊媒師というくらいだから見えないと困るが……


「そういえば、ナオが女の子に会った祠があるって場所、迷子になって偶然行き着いた場所だからたどり着けるかわかんないんですけど……」

「俺も会ったって記憶は思い出せたけど、やっぱり十年前のことってのもあって行き方は全然思い出せないんですよね。あのあと裏山に入ることもなかったし」


 リュウも俺も、あの日偶然たどり着いた場所が裏山のどこにあるかわからない。一先ず裏山――当時入っていった場所へ向かって歩いているが、そこからの道案内はできないのだ。


「山の麓まで行けば嫌でもわかるからいい。トネコ様に関係する何かがある祠ってことは、すげえ強い力が流れてるだろうからそれを辿って行けば簡単に行ける」

 まだ離れてるのに既に強い力を山の方から感じるんだよな~とジョニーさんは言った。

 続けて、十年に一度 数人を連れ去ることについても推測ではあるが解説してくれた。


 恐らく連れ去った者を喰らうことによりエネルギーを蓄えている。それが十年で徐々に弱まっていくため、また連れ去る——それの繰り返しだろう と。人数が毎回同じじゃないのも、一人が持っているエネルギーというものに個人差があるからだそうだ。


 その後は、雑談へと徐々に切り替わっていった。ジョニーさんはあの映画見たか?すっげー面白くてさ~ジョニー・デップがカッコよすぎるんだよな。と言って、リュウもその映画を見ていたのか盛り上がっていた。

 やっぱりあのジョニー・デップからとった名前だったんだな——ジョニーさんは多趣味のようで、ゲームとかも結構するそうだ。前のブームは戦国武将が闘うゲームだったらしく、「だから織田信長だったんですね!」とケイが納得していた。前の自称ネームは織田信長だったらしい。何か本名を知られたくない理由でもあるのかと思ったが、呼び方なんてどうでもいいだろと言っていたし、特に意味はないんだろうな。

 一応、それとなく今朝見た悪夢について、内容こそ覚えていないものの聞いてみたが、人は無意識下であっても脳内の情報を寝ている間に整理するため、その影響で悪夢を見たんだろう、と言われた。

 まあ昨日の出来事はかなりの恐怖体験だったし、悪夢を見るのもおかしくはない。内容はまったく覚えていないが。そのあとに見た、朧気ではあるが覚えている夢についても聞いてみたが、お前の婆さんじゃねえの?と適当に返された。

 順当に考えればそうである。二人いた気がしたが、気のせいだろう。


「あ、ここです。確かこのあたりから上がっていったはず、だよなリュウ?」

「うん。ここに自転車停めて、そこから登って行ったと思う」


 二人で記憶を擦り合わせて、ジョニーさんに伝える。

 ん~と顎を擦りながらジョニーさんは「ここじゃねえな」といい、神社への行き方を聞いてきた。

 神社はこの道このまま進んで行けば入り口に着きますというと、そっちから行った方が早いな。と言い、サンダルをペタペタと鳴らしながら一人でサクサクと進んで行った。慌てて俺達も追いかける。


 そもそもさ、と言いジョニーさんは話し始めた。

「トネコ様伝承について恵から定期的に資料送ってもらってたけど、この村ってのは神社が中心になってるのに、トネコ様については何も対応してこないんだろ?」

「でも、昔からの風習的なもので村の人も納得しているというか受け入れてるってこともあるので……相談しにくる人もいないんじゃないですかね。嫌な人はナオの家みたいに村の外へ引っ越せばいいし——」

「そう、それなんだよな。昔からトネコ様の連れ去りが十年に一度とはいえ、誰が選ばれるかわからない土地にわざわざ住みたがるか?自分の子供が魅入られて、連れ去られるかもしれないんだぞ」


 そう言われて、当たり前のことに気が付いた。

 自分が生まれ育った土地とはいえ、自分の子が魅入られてある日突然いなくなる——つまり死んでしまう可能性があるのに、それでもなお住み続けるのは何故なのか。

 トネコ様の連れ去り条件には、村の血筋という条件があるという以上、この村で生まれ育ったものが住んでいなければいけない。トネコ様の連れ去りはわかっているだけでも百年以上前から起こっている。

 なのに何故、村に住み続けている人達がこんなにもいるのだろう。


「恵と龍巳の調べた結果、過去百年で行方不明——連れ去られた人たちには特にこれといって共通点がなかった。本当に村の人間で若者って以外の条件はこれといって無さそうなんだ。なのに厄災を逃れるためということだけで村に住み続けて、自らの子が連れ去られることをも許容している。狂ってるよ」


 狂っている——故郷をそう言われて、怒りが沸くかと思ったが逆に納得して村人達が怖くなった。

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