第8話 状況把握

 ケイの部屋に着き、荷物を置いて座ると今までずっと張っていた緊張感みたいなものが一気に抜けた感じがした。リュウも同様のようで、表情が少し和らいでいるように見える。

 そこにケイが飲み物とお菓子を持ってきて、机を囲んで現状確認兼作戦会議を始めることになった。


 まずは、トネコ様の今わかっている情報と状況を再確認しよう、と紙を取り出してケイは現状を書き出した。俺は食べたものを全て吐いてしまったのもあり、お腹がすいていたためお菓子をつまみはじめた。

「僕がいない間に、トネコ様が家の中に現れたんだよね?どんな感じだった?」

 ケイからの質問に、一つ一つ丁寧に思い出して答えていった。俺にも紙を渡されて、どんな見た目だったか描くように促され、絵心がない俺は精一杯描いた。最初に見た煙のような姿、今朝見た足が生えた姿、そして——俺の目の前でどんどんと輪郭がくっきりしていった姿。描きながら、改めてその時の説明をした。


「うん……まあ予想通りだとは思うけど、ナオが直接会話したことによって進化——姿が変わったんだと思う。置いておいた盛り塩が破裂したのはトネコ様が通るときに破裂したんだろうね。で、ナオの中から出てきた皿の謎だけど、割れた皿が何らかの力でナオの中に移動した……何か意味があるのか、無いのかも僕にはわからない。明日来る知り合いに聞いたらわかるかもしれないけど——」


 ケイは、僕は見えるだけ・憑かれやすいってだけで祓う力はないんだよね――と言った。

 そもそも、明日来る知り合いというのも、昔から土地神や伝承について各地を調べまわっている際に強力なモノに憑かれてしまい、たまたま出会ったその人に祓ってもらったのがきっかけで今も縁が繋がっているらしい。

 憑かれやすい体質だが、この土地の伝承——トネコ様は村人の血筋の者しか連れ去らないという限定的条件があるため、自分の安全は保障されていると思い、そのためだけに村内に下宿しているとのことだ。


「でも、この家には強い結界が張ってあるってさっき言ってたよな。トネコ様が怖くないならなんでわざわざ?てか、それっぽいの全然見当たらなかったけど……」

「トネコ様だけが脅威じゃないんだよ。まあナオにとっての今の一番の脅威はトネコ様なんだけど……」

 と前置きをして、ケイは説明をし始めた。

 所謂、見える人にだけ見えるものは結構そこら中にいるらしい。良いモノ・悪いモノ限らず。この家には、その悪いモノが入れないようにしてある。あからさまな御札みたいなのを貼りまくったら他の人にもおばさんにも怒られるから、専門家以外の人が見てもわからないような強力な結界を、何日もかけて構築した。

 特にケイの部屋は家の中でも一番強力。トネコ様も絶対に入ってこられないと思う、と。

 そもそもこの村には、トネコ様の力が強力すぎることもあり悪霊含め人に害を為すモノはほぼいないとも言っていた。毒ををもって毒を制すということだろうか。

 祓う力がない、といったケイだったが、その知り合い霊媒師に手伝ってもらったり教えてもらったりすることで結界は作れるらしい。

 盛り塩は、その中でも一番簡単でお手軽に作れる結界だったんだけどトネコ様を甘く見すぎてたと謝ってきた。ついでに、ケイが言うには盛り塩よりもばあちゃんの笑顔結界の方が効果あるとのことだ。


「そういえば、トネコ様が俺の後ろに現れたのはあそこから出て、ばあちゃんの写真全部、鞄にしまったときだった——」

「うん。龍巳もいない、邪魔な結界もなくなったそのタイミングを見計らったんだろうね。予想以上に頭が回るみたいだよ、トネコ様」


 俺の祖母は、自分が思っていた以上にすごい力の持ち主だったらしい。だった、というか死後もその力を、写っているだけの写真ですら発揮しているのだから頭が上がらない。とりあえず鞄の中からばあちゃんの写真出して手元に置いておこう。

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