王国と、召喚

「王国はその隣にある国と争っていました。その理由は……何でしたかね。長く続いていた為、わからなくなってしまいました。どうせ大した理由は無いと思います。王族の面子とか、そんなものかと」


 くだらない、と女は吐き捨てる様に言う。


「何故、くだらないと? 王族であれば面子は――」

「面子の為に、民を犠牲にしているのですから」


 女ははっきりと、答えた。


(話し方から貴族かと思っていたが、違うのか?)


 神父は考える。貴族なら面子が大事、という事は解っている筈。建前でもくだらない、と吐き捨てる者はどちらかというと庶民側。少なくとも、神父が知っている貴族にこの様な物言いをする者はほとんどいない。


「長い間続いた戦争ですが、ある時隣国の戦力が強化された事で拮抗していた状態が崩れました。王国は甘く見ていたのですね。あっという間に窮地に陥り、足掻いたところで待っているのは敗北というのは確実。民が、兵が多く傷つく有様でした。取れる手立ては王――いえ、王族全員ですかね。首を差し出すことで、国が傷つくのを止める事が出来た。そのくらいです」


 国民を救う為自らの命を差し出す。敗北を認めるという事である。


「――ところが、打開する策を見つけたと言うのです。それはここではない何処かから秘術を用い、この状況を何とかできる者を召喚する、というものでした。過去、王国でその様な秘術を用いた、と書かれた書物が見つかったのです」

「秘術に、召喚……ですか?」

「ええ、誰もが最初は疑いました。秘術、とはいえここではない何処か、とは一体何処なのか。呼び出す者は何なのか、と。しかしその藁のような物にも縋るしかありませんでした。この秘術を使える者を探す事になりました。誰もが扱える術ではなく、適性がある者が必要だったのです。そして――一人だけ。ただ一人だけ適合する者がいました」

「……その、誰だったのですか?」


 神父が問うと、女は少し黙る。どうしたのか、と問おうとした所、返事が返ってきた。


「――王女、でした。王の娘である、王国の姫。彼女はその身に、魔力を宿していました。とても強い魔力――ここではない何処かから、強き者を呼び出す為に必要な力を。早速王は王女を使い、召喚の術を行った。そうして、1人の者を呼び出したのです。その者は男性。初めは誰もが疑いました。1人でどうにかできるような見た目ではなかった、と。術は失敗した、と誰もが思いましたが――彼は特殊でした」

「特殊、ですか?」

「ええ、特殊でした」


 小さく女は笑う。何処かからかう様な、それでいて神父を不安にさせる笑い。


「彼は――人を殺すという事に長けていたのです」


※遅刻しましたorz

 





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