自称人殺しと、亡国
「人を、殺した……?」
最初、神父は女が何を言っているか、理解できなかった。自分自身で口にしてようやく飲み込めた。
「……言っている意味が、よくわからないのですが」
神父は女に聞き返す。何を言ったかは解ったが、理解が追いつかなかった。何か聞き間違えだったのではないか、という期待を込めた問いであったが、
「人を、殺したんです」
女の返答は変わらなかった。
「首を絞めて殺した事も有れば、突き落とした事も有ります。一番多いのは、刺し殺した事でしょうか」
更に詳しい事を言われ、神父はげんなりした表情を浮かべる。
(どうする?)
神父は自分に問いかける。仕切りの向こうに、人を殺したという女がいる。声からしてまだ若いはずだが、そんな女に多くの人が殺せるのか、というのが疑問であった。
からかっているのならばそれで良いが、真実であった場合何時こちらに牙を剥いてくるかは解らない。懺悔と言いながら、新たな犠牲者を求めているかもしれない。
――箍の外れた者は恐ろしいのだ。
「神父様?」
返事が無い事を疑問に思ったのか、女が神父を呼びかける。
「……いえ、何でもありません。続けてください」
少し考えて、神父は話す事を促した。今神父に出来る事は、話を聞く事だけしかない。
「何故、人を殺したと思いますか?」
女が問いかけてきた。
(よくある話だと恨みだろうが……)
問いに、神父は少しの間考え込む。
「……わかりません。人を殺す、という行為とは縁が無いので」
「――ふふっ」
仕切りの向こうで、反応があった。思わず笑ってしまった。そんな反応だった。
「あの……?」
「ああいえ、失礼しました。そう言えば神父様なんですよね。人殺しとは程遠い。変な質問をしましたね」
「ああ……いえ、いいですよ」
「それで、人を殺す理由ですね。言ってしまえば簡単なのですが、一言で済ませてしまいたくないのです。そうすると、軽い物になってしまう気がして……」
「そ、そうですか……」
神父が言うと、女から何も返ってこない。言葉を選んでいるのか、こちらの反応を見ているのか。
何か話しかけるべきか、と神父が考えていた時であった。
「神父様は、かつて存在していた王国を御存知ですか?」
「王国、ですか?」
「ええ。この村からは――距離はありますかね。どれくらい経ちますか……今はもう滅んでしまった、何故滅んだのかわかっていない王国です」
「……ええ。有名ですからね」
神父はそう答える。
――有名な話だ。この村から離れた所に、かつて王が治める国があった。
隣国と戦争をして、勝利したはずが間をおかずに滅んだという。
疫病だとも言われ、実は戦争に勝利していなかったとも言われている。真実は――知られていない。
「その王国について、話しますね」
「……それは、必要なのですか?」
「ええ、必要なんです」
そう言うと、女は話し始めた。
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