第12話 とても良く眠れたわ
翌朝、私はヴォルゴ宮殿の一室で目を覚ました。
私が三ヶ月前にパレンツァン邸の外で出会ったジュリ様は、公爵様にパーティーに呼ばれていたクリスザード帝国の皇帝──ジュリウス陛下だった。
私は政略結婚に利用されて、無意識の内に家族から虐待を受けていたところ、それを知った陛下が保護して下さると仰った。
陛下の提案を受け入れた私は、こうして宮殿の客室を貸して頂いて……。
「おはようございます、ロミア様。お加減は変わりありませんか?」
「おはようフェル。こんなにも心地良いお部屋でゆっくり休ませて頂いたから、とても良く眠れたわ」
部屋まで起こしに来てくれたフェルにそう告げると、彼女はほんの少し間を置いてこう言った。
「……それは安心致しました。目覚めの紅茶をご用意して参りますので、その間に身支度を整えさせて頂きますね。……エリザ、入って来なさい」
フェルに呼ばれて部屋に入って来たのは、若い少女だった。年頃は十代……アリスティア家の侍女カミラと同じぐらいだろうか。
「さあエリザ、ご挨拶をなさい」
「お初にお目に掛かります、侍女見習いのエリザと申します! まだまだ至らない所だらけでどうしようもない新参者ではございますが、もしも何かやらかしちゃっても……そこはどうかご愛嬌という事で、目を瞑って頂ければと思います!」
元気に挨拶をしてくれたエリザと名乗った女の子は、フェルより少しシンプルな黒い侍女服に身を包んでいた。フェルと同じ黒髪をしていて、それを頭の後ろでお団子にして纏めている。
……あと、かなり個性的な子であるらしい。
彼女を紹介してくれたフェルはというと、眉間にしわを寄せてエリザを冷徹な目で見下ろしていた。
「エリザ……あなたという子は、本当にどうしてこのような……」
「えっ、ええっ!? あ、あたし、何か変な事やっちゃってました!?」
「……存在丸ごと全てが変ですよ、あなたは」
「ひっどーい! こんな可愛い女の子にそんな事言うなんてーっ!!」
「そうやって無闇に叫ぶのを止めなさいと、あと何度繰り返し言い聞かせれば学習するのですか……? その無駄に回る口を縫い合わせてやらねばなりませんか……?」
「ヤダヤダ〜っ! 師匠ったらもう、そんな物騒な事言わないで下さいよー!!」
……ほんの少ししか彼女達のやり取りを見ていないけれど、確信したわ。
フェルは絶対、この子に手を焼いている!
そして同じ職場に居る弟さんであるゼル先生とも、いつもこんな感じなのだろうな……と。
「あっ、そうだ! えっと、これからロミア様のお着替えや入浴のお手伝いは、このエリザが担当させて頂く事になったらしいです! 本日から、どうぞよろしくお願いしまーっす!!」
「よ、よろしくエリザ。ええと……」
物凄い勢いでお辞儀をするエリザを見て、フェルが深い溜め息を吐く。
私はそんなフェルの様子を見て、ひとまず彼女をエリザから遠ざけてあげた方が良いのではないかと直感した。
「……フェル、それではお茶の支度をお願い出来ますか? それとエリザも、早速ですが着替えを手伝って頂けると助かります」
私が二人にそう伝えると、エリザは嬉しそうに瞳を輝かせる。
「はーいっ! 師匠直伝のお着替え術で、このエリザがロミア様をパーフェクトなレディに仕上げちゃいますねっ!!」
「……色々と言いたい事はありますが、わたくしは一旦失礼させて頂きます。エリザ……くれぐれも、ロミア様にご迷惑をお掛けしないように」
「分かってますって〜師匠っ! 何と言ったって、あたしは師匠の一番弟子なんですから!」
行ってらっしゃーい、とブンブン手を振ってフェルを送り出すエリザ。
私も思わず彼女に釣られて手を振ってしまって、それを見たフェルが数秒間手で顔を覆っていた。……エリザの不思議な魅力に、初対面で飲み込まれてしまった私がいけないのだ。
フェルがお茶を用意しに向かった後、エリザはワクワクした顔で私の方に振り返る。
「それではロミア様ぁ……朝のお着替えタイム、行っちゃいましょー! おーっ!!」
高らかに右手を天に突き上げるエリザに、私は困ったように笑うしかなかった。
フェル……なるべく早く戻って来て下さいね……!
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