第11話 お前達は彼女をどう見る?

 ロミアの保護が決まった後、彼女はひとまず客室で休んでもらう事にした。


 フェルに連れられて謁見の間を出て行ったロミアは、人前で……それも皇帝である俺の前で泣いてしまった事を謝罪していた。

 俺としては、普通の女性ならもっと取り乱していてもおかしくない状況だと思うのだが……彼女は強い女性だ。ここを出て行く頃には、しっかりと前を向いて泣き止んでいた。

 ……後で、彼女の目が腫れてしまわないと良いんだが。


「……それでだ、ゲラート。レオール。お前達は、彼女をどう見る?」


 扉が閉じられた後、俺と共に謁見の間でロミアと対面した二人の幼馴染に話を振った。

 まず最初に口を開いたのは、魔術師団長のゲラートだった。


「そうですね〜。……信用出来る方ではあるかな、と。フェルさんの調査通り、かなり劣悪な家庭環境で育ったご令嬢だったというのは、中々心に来るものがありますね……。出来る事なら、全て勘違いであってほしかったですよ」


 続いて、今度は騎士団長のレオールが。


「シルリス王国の上流階級の血統主義は、相当根深い問題だってのを目の当たりにしちまったからなぁ……。あれで性格が捻くれずにいられるなんて、どんな考え方をすりゃあんな聖人みてーな人になれるのか、全く分からねえぜ」

「……それには俺も同感だ。彼女は今も変わらず、清廉な心の持ち主のままだった」


 二人は改めて俺の前に並び立つと、段差の上に置かれた玉座に座る俺を見上げる。


「僕は〜……うん、明日にでもロミア様の魔力を調べてみますね。表向きにはアリスティア家に伝わる《炎の加護》持ちという事にされていますが、実際には何の加護をお持ちなのか、しっかりと判明させておきましょう」

「オレの方では、引き続き伯爵家と公爵家の動向を探らせておく。例の御者の件も、中央教会から連絡があればすぐに知らせに来るぜ」

「ああ、二人共よろしく頼む」


 すると、レオールがロミアの出て行った扉の方に顔を向けながら、口を開いた。


「……最初はいきなりジュリが『助けたい人が居る、力を貸してくれ』なんて言って来たから何事かと思ったが、この目で実際に彼女を見て確信したよ。……あの子は何も悪くない。もし彼女が帝国貴族に生まれていれば、あんないつ殺されてもおかしくないような国で生活しなくても良かったのにな」

「レオ君の言う通りです。……生まれた家のせいで自分の人生を他人に好き勝手されるだなんて、どうかしてますよ。望まない相手と結婚して、無理矢理子供を産ませられるだけでも恐ろしい事だというのに……」


 ゲラートもいつもの呑気な喋り方をやめ、真剣な面持ちで固く拳を握り締めている。


「……僕は今日、こうしてロミア様と顔を合わせて、どうしても彼女の力になって差し上げたいと思いました。彼女が陛下の……ジュリ君の助けたい人だからというだけじゃありません」

「オレ達だってなぁジュリ、アリスティア家あんないえで虐待されて、今度はパレンツァン家もっとひどいトコで地獄を見させられるかもしれない子を助ける為なら、非番だって返上して働いてやるさ!」

「僕達は、彼らみたいな人でなしじゃありませんからね〜?」

「ゲラート……レオール……」


 事前にロミアの境遇や、伯爵家と公爵家の疑惑については彼らにも説明してはいた。

 その時点では俺やフェルの報告に半信半疑だったようだが……ロミア本人に会って彼女の人柄に触れ、俺のやろうとしている事に共感してくれたらしい。


「……これから先、今以上に事が大きくなるだろう。両家からしてみればロミア嬢は行方不明になった状態であるし、姿を消した御者を血眼になって捜すはずだ」

「でも、フェルはキチンと仕事はしたんだろ?」

「フェルさんの手腕でしたら、絶対に大丈夫でしょうね〜」


「「「彼らはきっと、御者を捜し出す事は出来ないから」」」


 俺達三人は、一言一句違わずに同じ言葉を口にした。



 そしてその言葉は真実となり、レオールが教会から秘密裏に届けられた書簡を俺の元へ届ける事になるのは……もうしばらく先の話だ。

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