第23話 コラボだ!?


 ──Zwei3階。

 四季さんとスマファミオーディションをした部屋に連れて来られた時雨は顔を真っ青にし、恐怖と緊張で身体を震わせながら席に座る。向かいにはドカりと怖い人が腰を下ろした。


「( ˙ ⌳˙ )チッ。で?ここなら、好き勝手話せる訳だが─────お前が、あの天月カグレ 本人なのか?」


 まだ時雨に対し“疑問形”のまま……

 確かに天月カグレは全てが謎に包まれている。声も性別も何もかも。そのやり方が幸をそうしたのか、完全にはカグレと信じきれていないようだ。

 なら………このまま誤魔化せば !


「いいえ、違いま───」「───そうだよ♪♪」


 時雨が言い終わる前に、ルンルンな四季さんに”確定“を言い切られた。

 oh…my God、you Are dead……ッ。


「そうか、そうかよ、そうなんだなァ!!!」


 声のギアが徐々に上がる。それと同時に真っ黒なドス黒い瘴気……殺気にも近い感情が湧き出すのを肌でビンビンに感じる。


「へぇ…………で、お前はこれからどうすんの?」


 その状態からの突然の問に「え…?」っと、時雨は返す。


「一発目の配信で盛大にやらかして。Zweiに多大な迷惑をかけたお前が、新人のお前如きがァ!これから普通に、平凡に、ノソノソと配信をやって行けると思ってんの?今回の定例会議で謝罪の一言も無いしな!」


 あー、無理っ。ですよね……普通に考えて。

 それはそうだ。自分でも分かる。許される訳が無い、逃げられる訳が無い。だけど……


「やりたいです。やりたいんです。例え短い期間だったとしても、私もあの人のようにVTuberをやっていたいんです」


 時雨の憧れの存在であり、唯一無二の1番推し。VTuberをやろうと思い至ったきっかけである『森羅 ムニ 』さんだ。彼女と出会ったのは、時雨が中学生の頃まで遡る──


 ☆☆☆


 田舎の何も無い……ゲームか農業かの2択しかやることの無かった時雨の中学生活バットエンディングストーリー。ただただ一途にガチナイト持ちキャラ十八番即死コンボを磨くor無心で農業に励む永遠ループ。人が居ないから友達という人もおらず……無関心に、無感動に日々を過ごす。


 ミンミンと蝉が忙しなく鳴くゲーム部屋マイルームに、汗でベトベトで気持ちの悪い身体。こんなじゃ、大好きなゲームすらもやる気にならない。


 あぁ、つまらない。何をやってもつまらない。そんな日々をこれからも淡々と過ごす事になるのだろうか…そんな淡い事すらも考え始めた。











 ──そんな時雨を変えたのは1つの伝説の“配信”。

 まだVTuberという“存在”が世間に上手く定着して居なかった頃だ。


『──どうも〜、新羅 ムニだよ。今日もゆっ~たり、ゆっ~くり配信やってこうか』


 おっとりとした聞きやすいボイス、その声には新鮮さとあどけなさも含まれている。だが、自然と心が落ち着く…まるで大自然の中に居るような清々しい声と言えた。



 これが森羅ムニ。配信の冒頭は軽くトークを交えつつ、準備の時間だ。

 それは勿論、森羅ムニ自身では無く………配信を眺める視聴者準備だ。

 なぜなら────数分後には始まるのだから。至極、凄惨で豪快な配信が!





 バシュッッッッ!!!!!


 ガァァァァァォォォォォォォ!!!!




 それは圧倒的なプレイングスキルの暴力。それによって繰り出されるのは一方的な虐殺であった。



『ひでぇ……対戦相手が可愛そうや』

『それな。お相手さんも充分上手いんだけど、それを悠々と通り越してる。何も出来てなかったよお相手さん』

『かわいそー、心折れるやつだよそれ』

『でも、爽快すぎて見てて面白いわ!』



 スマファミで森羅ムニ基本的に扱うキャラ、殺戮と破壊の王 “ガノンウルフ“ 。 圧倒的なパワーとフィジカルで一瞬にしてファイターを塵にするスタイルは今も昔も相変わらずであった。



 森羅ムニは基本的に多くのゲームをプレイする。

 アクションゲームは勿論。格ゲーやFPS、シューティングゲーム、音ゲーなどなど。ほぼほぼ全てに死角は無いと言われている。それ程までに規格外。プロ顔負けの実力保持者である。まさにゲーム界に突如として現れた“天才”であったのだ。





 


『ほらほらほらほらァ!ココはこう!そうしてこう!それでこう、こうこうこうこうぉぉぉぉぉーーー!!!イエス!!勝利ぃぃぃ!!!』


 森羅ムニはVTuberとしても色んな意味で天才である。

 それは“煽り”では無く、単純に“楽しむ”ということであった。

 ただただ仕事でゲームをしているのでは無く、趣味でVTuberをやっている。メインは変わらずゲーム一筋。


 その為、コメントは基本読まずに好きな事をやって・やって・やって、気まぐれで視聴者に絡む………それが森羅ムニのプレイスタイルであり、配信スタイルであった。

 それでもVTuber業界を新歓とさせる程の人気があった。





 まぁ、今では歌を歌ったりゲームを作ったり、大会を運営したり、後輩指導したりと全てを上手い具合に立ち回っているのだけれど……





「はぁ、はぁ、はぁ、すごい。すごいっっッ!!!」


 そんな中学時代の時雨には衝撃が強過ぎて、森羅ムニは眩しく見えて憧れに見えた。


 ☆☆☆


 今までオドオド&モゴモゴしていた時雨。だが、今の時雨は本気の眼差しを怖い人に向けていた。


 絶対にこの気持ちだけは曲げられない。

 そんな途中で投げ出すような半端な気持ちでココには居ないと“目”だけで訴える。


「いやだから、そんなこと言っても無駄なんだよ!」


 怒りで机をドンと叩き立ち上がる怖い人。振動で四季さんが置いたペットボトルが倒れ、床にコロりと転がる。それがコツンと時雨の足に当たる。

 そしてそのままのペットボトルの様に、時雨に対して押し込もうとして近付いて来る。


「ひっ……」


 だけど、


「──まぁまぁ、ちょいちょい。一旦ステイだよ♪」


 先程の言葉通り、四季さんが間に入る。

 怖い人と時雨の中間地点に完璧に入り込み、完全鉄壁パーフェクトガードの構えだ。


「チッ、何だよ四季ッ。今私はコイツと話をしてんだよ!邪魔すんな」

「落ち着きなよ、なぁーちゃん先輩。手を上げそうだったよ」


 なぁーちゃん先輩……?だと。


「クッ、その呼び方いい加減やめろよ。恥ずいわ!

 それに、なんで“春夏秋冬 ひばり”である四季が天月カグレの為に出てくる?意味が分からないぞ?お前も十分被害被ってんだろうが!」


 2人の言動を見るに、それなりの仲なのだろうか?

 四季さんの事をひばりちゃんだと認知している訳だし。


「私はただ提案をしに来たんだよ♪シグシグとなぁーちゃん先輩の間のね。それに被害は大丈夫だよ。なんせ私は人気VTuberなんだし♪」

「チッ、心配損───

 それに提案だと?」

「そ♪VTuberなら、VTuberらしく。VTuberで勝負を決める。それが、定石だとは思わない?」


 んん?


「つまり何が言いたいんだ?」

「分かってるくせに♪──────コ・ラ・ボ だよ♪」


 自信満々に四季さんは言い切る。


「へぇー、コラボねぇ~

 それで……私が視聴者の前で天月カグレをボコボコにして泣かせてもいいんだな?」

「それは分からないよ。もしかしたら なぁーちゃん先輩が泣かされるかもしれないしねぇ♪」


 ニヤニヤと笑う四季さん。完全に四季さんのいつものペースだ。だけど、そうやって相手を煽るのだけはやめて欲しい。後が怖いですから。


「(´▽`;) ハハハ。よし、いいぜ、コラボしてやるよ。四季のペースに乗せられたのは癪だがな。徹底的に叩きのめしてやる。そして視聴者の前でしっかり謝罪してもらうからな」


 おいおいおーい。勝手に話進めてるけど、これってかなりヤバいのでは?


「………コ、コラボですか!?」



「───────そうだ!私こと、“柊 カノン”となァァァァ!よろしく頼むぜ!」


 という感じで、天月カグレ コラボします!!!





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