第22話 今からでも入れる保険探さなきゃね


 ──1時間程だろうか、Zwei定例会議が終了した。

 結果的に時雨自身が言及されることは無く、少しの口論があっただけでお咎めは特に無かった。


 場は続々と閑散として行き、残るは数十名ほど。その中に時雨と四季さん。隣の怖い人も何故か残っていた。

 …残りは知らん!


「はぁ…佐々木さんに直談判しに行くしか無いかァ……」


 足を組み、怒りを全面的に露わにする怖い人。ピリピリとする雰囲気が場に漂う。

 でも、恐らくこの人もVTuber…?なのかな、声的に。

 声はハリのある強い声色。だけど妙に惹かれる力強さがあった。それに、え……っと。この人は多分───


「ねぇーねぇー、シグシグぅ~最近配信はどーなのよ?順調そう?」

「ちょ!?まっ!?」


 や、やめてくださいよ!四季さんっっっっ!(´;ω;`)

 四季さんが妙に変なテンションで話し掛けてくる。


 全く、悪ふざけが過ぎる。隣には屈強な天月カグレアンチが居るんですよ!?ここでもしバレたりでもしたら佐々木さんの誤魔化しが全て無に帰すんですよ!?

 それに、私がどうなるか知りませんからね!?


 と、2人でジタジタ バタバタやってると……


「ん、お前も配信者だったのか?………VTuberだな?」


 見た目と雰囲気。そして、時雨の声でそう判断した怖い人は少しだけ嬉しそう?にしながら声を掛けてくる。


「えっと……………まぁ、一応そうです」


「ふーん。見ない顔だな。声を聞いたことも無い。──────新人か?」


 …ギクリ。時雨の心臓アラームが反応し、注意喚起を出す。ここの返答次第で、今後のVTuber人生が変わる感じがしたのだ。し、慎重にやらなければ。


「えっと………細々とやってます、よろしくです」


 VTuberとしての名前は出さなくて良い。“暗黙の了解”で追求されることも恐らく無いだろう。更にVTuberを最近始めたのか、もしや何年もやっているのか?それを敢えて言わず、短く締めるというテクニックも披露した。


 いつもはテンパって自爆して終わる時雨。だが、今回限りは………貰ったッ!!!!



「──そうそう。シグシグは最近始めた新人・・VTuberさんだよ。だから色々と教えてあげてね 先輩」


 おーい、四季さん!?

 何言ってるんですか!?

 今ので全部台無しですよ!?

 名前は出てないけどそれって言ってるようなものですよ!?


「へぇ、新人なのか。それもVTuber…か。最近デビューなら………どっかの誰かさんみたいだな」


 一瞬で場に緊張が走る。更に言葉に重みが付与エンチャントされる。


「えと、えっと……」


 待て待て、ここからでも何とか………かんとか…………………


「──そうそう、まるで最近巷で話題の放送事故した人みたいだね♪」


 おーい、言ってるじゃん。

 ダイレクトアタックだよ。

 チェックメイトだよ。

 そして、ゲームオーバーだよ。


「やっぱり……か。なるほど。お前があの………………ねぇ……」


 まじまじと時雨を見つめる怖い人。恐らく、天月カグレと時雨を重ねているのだろう。


「ギャップが正直すごいな、うん。初見では絶対に分からん」


 と、愚痴を零した怖い人。


「まぁいい、ちょっと話しようか。ちなみに拒否権的なものは存在しないからよろしく!」


「うぅぅ……………………………………はい。わかり、ました」


 正体バレは確実。そしてこれから別室で怒られるのだろうか?それともボコボコにされるのだろうか!?


 恐怖で身震いする時雨を横目に、


「さぁさぁ、盛り上がって来ましたよォ♪」


 嬉しそうに四季さんは笑う。

 もう、分かんないこの人。


「うぅっ、四季さんも着いてきてもらいますからね、責任取ってくださいよ」

「分かってる分かってる♪流石にボコボコにされる前には身を呈して守るよ♪」

「……………、」


 あ、終わった。

 そう思う時雨なのであった。


 ──今からでも入れる保険探さなきゃね。


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