第20話 勿論、佐々木さんには許可を取りました!


 ──18時。

 告知した時間通りに時雨は配信をスタートさせる。

 既に視聴者さんはかなりの数が集まっており、1万人は超えているようだった。


『キターーー!!!』

『待ってましたよォーー』

『また声がガシャガシャなんかな?』

『違うやろ、どっちでもいいっちゃいいけど』

『そやよね、流石に生声じゃないか?』

『流石にネ!』

『じゃあ、改めましてってことなのかな?』

『(・∀・)タブンネ』

『新生 天月カグレ 爆誕か!?』

『おぉー、楽しみィ』

『じゃないと声がガシャガシャなネタVTuberでイメージ固定されるからな』




「………っ、よし」


 ……ドクンドクンと高鳴る心臓を一喝。

 軽い呼吸を繰り返し心を落ち着かせる。

 案外、2回目の配信だからか………時雨の心臓は直ぐに大人しくなった。


 それを確認した後、マイクをオン。ボイスチェンジャーも起動。VTuberの時雨とカグレもリンクさせる。

 ──そして声をゆっくりと発する。


「よッス!天月 カグレの配信スタートするゾ~~」


 いつもの声ガシャガシャな声と同時に天月カグレが画面に現れる。それは見事な演出。

 両翼の白と黒の翼を羽ばたかせながら地上へ降り立つカグレは、キリリと笑みを零す。瞳には視聴者が映り、VTuberの…Zweiの最新技術の粋が織り込まれていた。



『あぁーーーー!?』

『あちゃーーーー』

『えぇぇ∑( °口° )!?』

『なんで声がそのまま!?』

『もしかして、声は元々この設定で行く感じだったんか?』

『音量最大だったから耳ぶっ壊れたァァァ』

『ワイは大丈夫やった。昨日で学んだからな』

『また被害者が……』


 時雨は……いや、カグレは声は変えずにそのままで行く事に決めていた。これは佐々木さんと話し合った結果で、単純にインパクトがあるというVTuberには珍しい希少性と……“今更感”が凄かったからである。


 結局ボイスチェンジャーを使う訳で、生声は使わないのだから変えても変えなくても自分の声じゃないし、一緒でしょ?という結論に至ったのだ。


 ──勿論、佐々木さんには許可を取りました!

 そう思うだけで、少し気分は楽になった。




「──ハジメニ。 昨日の件について!アレはゴメン。ボイスチェンジャーの設定ミスっタ」


 簡潔に話を閉じる。


『ええぇ、えぇ……!?』

『昨日の配信の説明、それだけ?』

『ヤバすぎ笑』

『それ、エッグ。てか、もっと弁解すべきじゃね?』

『まぁ、悪くないけど』

『面白いよ、天月カグレ!』



『てか、ボイスチェンジャーの設定ミスったら直せやw』


 うん、その通りだと思う。


「マ、イイじゃん。コレでも。アンマリ、変わラナいでしょ?」


『ヤッバ!』

『面白いね、』

『ミスをそのままツッパる感じか?』


 若干というか…既に視聴者さんを置いてけぼりにしてる感じがするが、取り敢えず配信を進める。


「次、自己紹介ッ!」


 ザワザワとするコメント欄は無視。1回目の配信で出来なかった自己紹介を始める。


「名前は…天月 カグレ。ゲーム実況系………………ほのぼの配信者っと。マぁ、メインはスマファミでの対戦をやっていこうと考えてルゼ。配信時間は追追説明……誕生日とか……色々な設定とか詳しイ所は───ココ


 ──カタカタ。


 今、QRヲ画面に貼っつケたからそこで飛んで見テクれ」




『( ˙꒳​˙ )ファ?QRコード…だと!?』

『ええぇ!?自分で、言わないの?』

『まさかの設定て………メタ発言多いなぁ』

『……色々とツッコミ所が多い。まぁ、ありっちゃありなのか?』

『まぁ、逆に斬新というか、自堕落!?と言うのか……』


 突然のQRコードの出現に視聴者さんは戸惑いを隠せない様子である…………が、誰しもが普通はやらないぶっ飛んだやり方が少しだけウケているようだ。


『は?ふざけてんの?』

『意味わかんね?』

『スマホで見てんのに、どうやってQRを読み込めと?』


 うん……やっぱり、普通はダメだよね。

 アンチコメントがウケコメントよりも上回っているや。



 ──ビシビシ、ピキピキと精神にダメージが入る。



 時雨は思った。もう既に初配信ウイニングロードは終わりカグレの存在は視聴者さんの斜め上を行った。今更、清楚系なの可憐系なの元気系にバージョンチェンジしても正直、無理あるくないか?

 だったら全力で予想の斜め上を駆け抜け続けた方が良くないか?っと。その方が絶対に記憶に残るくないか?


 勿論、佐々木さんには許可を取りました!



「──ワイはワイのルールを曲げない。ダからワイはワイで、ワイワイやってイコウト思う」


『ワイワイてーw』

『ガシャガシャ過ぎて鮮明に聞けんw』

『でも、ウケるわ』

『ソレナ!』




『はぁー、つまんな』

『言ってることめちゃめちゃやな』

『配信見るのやめマース』

『チャンネル登録解除 完了ッ!』



 活動方針をいい終わった後、ようやく一息つくカグレであった。


「はぁ……」


 マイクが拾わないギリギリな音量で深いため息を吐く。


 ☆☆☆


「─────エ、、質問コーナーヤっテ?イイけど」


 という事で、急遽始まる天月 カグレ質問コーナー。

 未だに存在が謎に包まれ、自己紹介も詳しくやっていない天月 カグレ。その為視聴者さんから寄せられるコメントは意外にも多かった。


『カグレはなんでVTuberを始めたの?』


「アー、ソれはネ。ワイには憧れな人がイテ。その人ト一緒に配信をしたカッタからかな」


『へぇー、ナルホド』

『理由は案外普通だな』

『元、視聴者って訳か』

『理解理解!』




『スマファミ実況がメインだけど、腕前は?』


「うっ、ソレはマァ。まぁまぁッテ所カな」


『なんだなんだ。自信ないの?』

『言っとくけどスマファミ配信者はかなり居るゾ?』

『それなりに上手く無いと見向きもされんぞ?』


「ウゥ。でも1番得意ナゲームがコレだから。腕前はワイの配信を見てみて」


 カグレとしてはこれだけしか言えない。

 スマファミ自分の力には多少の自信はある。だが配信の時に発揮出来なければ当然意味は無いし、ただ上手いだけでは意味が無いというのも分かる。


 何故なら他の配信者と全く変わらないからだ。

 カグレにはゲームの腕ともう1つ何かウリとなる物が必要なのだ。



『ねぇねぇ、結局のところカグレは♂?♀?どっちよ』

『あ!それな。声だと全く分からんし、でも感じ的には女の子っぽい?』

『まぁ、大手のZweiのVTuberなんだし、女なんじゃね?』

『それな。どうなんや?』



「あ、え?ワイ?…………内緒、デスよ」


 だって、それはね。VTuberを高校生のうちから続ける為にはどんな些細な情報も漏らす訳には行かないからね。


『いや、なんでよ?』

『別にそれぐらいはいいやん…』

『まさか……♂?』

『あ、あ、ありえるのか?』

『これまでの様々な意味深な行動……マジかも』


 あまりにもカグレは自身の情報を漏らさない為か、途中から考察系視聴者が現れ始め、ボロを出す前にカグレは2回目の配信を慌てて終了した。



 だけど、その逃げるような終わり方に………

 ────【カグレ、実は男説!】の信憑性に拍車が掛るのであった。



 それに+‪αで、【自己紹介をQRコードで済ます猛者VTuber(笑)】という文面で少し話題になったけども……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る