第17話 時雨は学園の人気者になりつつある


「はぁ……はぁ……………♡」


 時雨さんを見送った後。

 まだまだ収まらない興奮を…火照りを……何とか抑えようとするがどうにも上手くいかずに、ヨレヨレになりながら近くの机に体重を預けようとする円香。


 頭の中は大好きで堪らない彼女の事でいっぱいで、少しでも“話せた”という達成感と満足感で支配されていた。


「あっ、大丈夫ですか 円香様?」

「そうそう、でも今日はよく頑張ったんじゃない、円香。

 えらいえらい!」


 すかさず、2人の友達が両サイドで円香を支える。

 1人は円香と初等部時代からの幼なじみであるひいらぎ 百花ももか。もう1人は中高で同じ生徒会と部活でよく一緒に居る望月もちずき灯火とうかだ。


 2人とも円香に負けず劣らずの美人であり、円香を含むこの3人がクラスカースドトップに君臨する人間であった。←(彼女達はそう思っていないが、周りの生徒達はそう考えており、良い意味で近付き難い存在でもあった)


「あ、ありがとう……百花、灯火……助かりました」

「大丈夫です、いつもの事ですから。それよりも少し休憩しませんか」


 そう言って百花が持って来た水筒からお茶を出し、円香に渡す。

 百花は面倒見がよく、ついつい甘えてしまう。悪いとは──ごくごく。美味しい──思っているよ、うん。


「あー!ずるい!私にもちょうだいよ!」

「──いいえ、断りますわ。だって灯火さんはただの水分補給でこのお茶を飲みたいのでしょう?」

「そーだよ、いいじゃん別にぃ~」


 駄々を捏ねる灯火に百花が一括──。「これは、円香様専用に用意した物です!」と言ってこの会話は閉じた。




 そんないつものやり取りをしながら、少し落ち着きを取り戻した円香。


「はぁ……いつも、ごめんね2人とも……面倒見てくれて……」


「気にしないでくださいよ、円香様」

「そそ、恋に走る女の子を応援するのも悪くないからね、任せてよ」


 百花も灯火も笑顔で答える。

 そんな優しい言葉をかけられて円香は「ありがとう……2人とも」と、微笑み返す。




 ────よし!


 まだ濃く残る、熱く火照る気持ちと今から追い付いて抱きしめたい気持ちを何とか抑えつつ、いつもの“ルーティーン”を実行する。



 円香は鞄から一冊のノートを取り出す。


「円香、それっていつもの?」

「そうそう、“秘密のノート”!」


 灯火の疑問に答えるように円香が元気よく答える。


“秘密のノート”──それは円香が恋する時雨は彼女への“大好き”という気持ちを綴った日記兼イラストノートである。

 まぁ要はラブレターの進化系の様なものだと思ってもらえれば簡単だろう。


 だが、イラストのセンスは飛び抜けて良く…特徴を捉えた可愛らしい絵が幾枚もあった。そのレベルはイラストレーター顔負けの出来でもある。


 まぁ、絵に写っているのは全て時雨・・だけれども。


「へぇー!って、またレパートリーが増えてる?すご!」

「…………ふむ、なるほど。勉強になりますわ!」


 数回の会話の内に、“今日の時雨ちゃん”というタイトルの絵が完成し、その絵を見てうっとりと微笑む。


「…ふふ、」


 日に日に高まるこの感情。それに続いてレベルが上がる絵の才能。





 今でもよく思い出す───時雨と円香の出会いは高校の入学式までに遡る。



 ☆☆☆


 都立 星の夜空女学園は中高一貫校であり、様々な県からの選りすぐりのエリート(+富裕層)達が集まる難関校である。

 その為、入学すること自体が難しく外部受験で入って来る子はかなりの優秀な人材又はインパクト性が求められる。そういう理由もあり、外部受験の合格者は年に数人しか居ないほどにレベルが高く険しい道であった。


 だからか…高校に進級したとしても、顔触れの変わらないいつもの生活を高校ここでも過ごすのか…と、少しだけ初々しさが足りないと感じていた入学式の日。



「───それでは、今年度首席 雅坂 時雨さん。今年度の代表挨拶をお願いします」


 1人の少女が名前を呼ばれ、円香の目の前に現れる。

 名前は聞いたことのない子。もしかして外部受験の子?しかも主席!?


 ──顔を見る前から優秀さとインパクトを感じられる。


 そんな雅坂 時雨さん?は、オドオドと自信の無い面持ちで壇上に立つ。だけど、人目見た瞬間に円香にだけは強い衝撃を与えた。


 黒く輝く髪に、小さな あどけない身体。自信の無い見た目とは裏腹に……整った綺麗な顔立ち。


 どうやら彼女は外部受験で遥々この学園に入学し、しかも外部受験生で初の主席。そして【特待生】を勝ち取った前代未聞の生徒だった。


 円香は一瞬にして理解する。

 この子に一目惚れしてしまったということに。


「っ、!?あァ!?な、に!?」


 ──突如、円香の脳内に溢れ出した存在しない記憶ッ!


 壇上で挨拶をする彼女が円香の視線に気づき恥ずかしそうに微笑み返した。まるで花が咲くようにニッコリと微笑む彼女。その微笑みにより──ッッ!!!




 ──突如、円香の脳裏に映し出される円香の為だけにしっとりとゆったりと微笑む彼女の姿!!

「なっ!?」

 ──突如、脳内に映し出される、まるで友達であるかのようなフレンドリーな彼女の姿ッ!!

「あぁ!?」

 ──突如、脳内に映し出される彼女が本当に“彼女”になって駅前で デートをする姿ッ!!

「なっ!?はっ!?」

 ──そして、脳内に映し出される哀れもない、彼女の産まれたままの幼い姿ッ!!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ??????」


 いや……いやいやいやいや、嘘でしょ?えっ、えぇ?何これ?と、止まらないぃぃぃぃ、感情がッ!気持ちがァッー!









 ───────────────────ブツ、、、






 そして、何度か──存在しないはずの記憶が出入りした後。円香の大波乱万丈な脳内は急激に落ち着き、理解した。


「私と時雨ちゃんは見えない何かでいつも繋がっていて、後々結婚するんだ」っと。「親友だったんだ…」っと。


 涙がツゥ~と頬を伝う。これは歓喜の涙だ。










 そんなこんなで……時雨Love人間ヘンタイが誕生&時雨は学園の人気者になりつつある というお話茶番であった。

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