第15話 ハジメまシテ!
時雨は“初配信”に向け、この1ヶ月間に色々と準備を続けて来た。
一人暮らしの質素な東京のワンルーム……
女子高生の可愛らしいファンシーなイメージの部屋とは思えない散らかった汚部屋とも言える。
飲みかけのペットボトルに食べ終えたコンビニ弁当の空箱。地元に無かった
そんな部屋にZweiから支給された吸音材をベタベタと至る所に貼り付けたり、WiFi環境をルータを買って何となく整えたり、ゲーム機を買って色々と練習したり。
自分に出来ることを自分なりになるべくやった、はずだったのに。
どうして……本番であんなことにっっ。
☆☆☆
天月カグレの初配信は日曜日の午前10時に予定されている。平日は時雨自身が高校に通う必要がある為、それを考慮した時間で行われる予定……だったのだ。
──だけど、本番前から早速時雨はカマしてしまう。
「ぎゃゃゃぁぁぁぁァァァーー、ッッ!!!?!???」
それは────単純なる寝坊of寝坊。言わゆる
寝坊の原因は単純な緊張と不安。
初めての配信に、多大な期待と希望。
それに押し潰されそうになりながら、日々を過ごした。元々気の弱い時雨には尚更悩む時間が多かった…のは、言うまでも無い。
そして…………悶々とした前日は勿論、一睡足りとも出来るはずもなく気絶したように意識を落とした。
これが正常な睡眠と言う言葉に当てハマる訳も無く、次に意識を取り戻した時には既に
「や、ヤバすぎるヤバすぎるよぉぉぉぉっっっ!!!!」
──初配信まではまだ30分
これらは約1時間前から動画のタイトル、サムネイルとコメント欄を公開し、視聴者さんと配信者の間でリアルタイムにコンテンツを楽しめるという新たな配信スタイルで、視聴率も話題性もググんと上がって配信者にとってはウマウマだし、視聴者さんにとっては早く動画のタイトルやサムネイルを知れたりコメント欄を通して様々な交流を楽しめるという……互いにウィン・ウィンで最高の配信方法である。
まぁ、今の時雨の状況的にその配信スタイルで予定通りに配信がスタートさせられるかすらも微妙だけれども。
普通にプレミアム配信……遅刻してるしね。
「うぅっ……どうしよう……(;ω;)」
無意識的にスマホを覗くと、マネージャーの佐々木さんや先輩の四季さん。更には母親からの心配の連絡がかなり来ていたが、まずはその前に配信の準備をしなければならない。
一瞬のうちにそう判断を下した時雨はベットから素早く飛び起き、直ぐに配信準備に取り掛かる。まぁ、当然の如く汗は滲み、手は震える。心臓は高く鳴り響き、気持ちを焦らせる。
…勿論この1ヶ月で配信のノウハウは多少は身に付けたものの、まだまだそれは未熟に過ぎないし自信にも繋がらない。
ましてや機械音痴と言い切れるほど機械に疎い時雨。散々繰り返し練習してようやく会得した配信スタートの工程すらも焦りで惑わされ、相当の時間を要してしまう。
「あっ!」
「うっ!」
「ちょ!まっ!」
そんなドタバタで配信準備をし、何とかギリギリアウトだけど、何となく怪しまれない感じに準備を終え……プレミアム設定へと持ち込む事が出来た。本当に泣きそうになったけど、多分大丈夫だと思う。
──絶対に後で言われそうだけども(´;ω;`)
「よし!」
とりあえず、天月カグレ 初陣の時である!
☆☆☆
『おー、Zweiの新人の初配信って今日だったか、楽しみ』
『それそれ、新人発表って割には時期がおかしいし1人だけだし、この子と同時に何かビッグイベントがスタートしたり?』
『うーん、ライブとかかなぁ?』
『アバターのビジュはいいし、期待度はかなり高め!』
『最新技術がもりもりだね、』
…と、既に天月カグレの初配信に集まった視聴者達はコメント欄やTwitterで大いに盛り上がりを見せていた。
TwitterやZwei公式チャンネルにて、数週間前から大々的に発表されていた新人VTuberの天月カグレ。可愛らしいビジュアルに細かな仕草、まだ声は挿入されて居ないが最新技術の使われた完成されたビジュアル。それは大いに目立ち、魅力的に映っていた。
天月カグレの初配信を見に来てくれた視聴者さんはそれなりに多く居た。初配信では信じられない程の同接数、それが天月カグレの………雅坂時雨の期待度を表していた。
「いい…じゅう……ひゃく…………マンっ!?」
ざっと3万人程だろうか……予想以上の集まりに更に時雨の胃はキリキリと不調を訴える。
「ふぅ…」
気持ちを整えつつ、機材の最終チェックをする。
肝心なパソコンは正常に動作しているか、自分の顔の動きに合わせてアバターを動かすカメラに問題は無いか、マイクの電源はONになっているか……
パッと見でそれらを確認し───
「あっ、」
最後の最後で1つの事に気付く。
そう言えばボイスチェンジャー機能をONにしてないじゃん!っと。
時雨は四季さんのやっていたように、ボイスチェンジャーで少しだけ声をイジって身バレ防止対策をとる事にした。
時雨が用意したボイスチェンジャーはスマホで検索して一番最初に出てきた怪しそうなスマホのアプリ。だけど、その時の時雨はそんなことを深く疑うことも無く真っ先に採用した。
この時はただ声を少しだけ変えられればいい としか思っておらず、バグやアプリ自体の特徴、性能など一切考慮していなかったのだ。
──準備はこれにて完了。
配信画面を見ると、プレミアム配信がスタートし天月カグレのアバターが画面に映り出されていた。
後は時雨の第一声で
「──わた……」
“私”…そう言いかけて時雨は慌てて口を閉じる。
そう言えば佐々木さんに「自分で決めた
そういうポロポロ設定を変える配信者は意外と炎上したり、長続きしないし、そもそも人気が出ないとかなんとか……
その為、時雨は寝る間も惜しんで色々と設定などを考え……キャラを決めた。そうして、時雨は第一に一人称を変える事にした。
「すぅ……」
大きく息を吸い、元気良く声を発する。
第一声が1番大事。もしも、失敗でもしたら今後の配信者人生の大きな汚点になりかねないからだ。
「──は、ハジメまシテ、ワイの名前ハ天月カグレ。コの配信業界に革命をもたらす……──────ッッ!?」
時雨は配信一発目で盛大にやらかした。
──まず一人称。いつもの“私”を辞め──“ワイ”という普段の日常では聞き慣れない一人称を使ってしまった。
どうやら
最高のアイディアであり、最高の個性。
ふふっ、私って天才ね♪…なんて少しでも思った自分を後に殴ってでも止めれば良かったと酷く後悔するのは第一声を発してから約数秒後の事である……
『ええぇっ!!!!』
『は……っっっ!?』
『ワ、ワイ!?Why?』
『何その声?イヤホンしてて音量MAXだったから、耳ぶっ壊れたんだけど!?』
『声がガシャガシャ過ぎ(笑)、絶対設定ミスじゃん』
誰しもがその一人称に、そして見た目とのギャップに………そして“声”に驚く。その中に勿論、時雨も含まれていた。
時雨の……いや、天月カグレの運命の初配信……その第一声。それは誰しもが驚く、最悪で配信業界に衝撃をもたらすガチャガチャな機械声からのスタートだった。
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