第14話 初配信に向けて


 時雨にとって運命のオーディション(2回目)から数日…

 ひばりちゃんこと、四季さんとは連絡を取りつつ…しれっと合格通知を貰った。そして時雨はすんなりとVTuberへの切符を掴み取ったのであった。












「えっと……これは、こうしてあーしてこーして、こうですか?」

「違う。全く違うわよ。全部1からやり直して頂戴」

「うぅ…分かりました。……………機械ニガテ…………」


 今はZweiでマネージャーとして時雨をサポートしてくれることになった佐々木さんと一緒に、配信をする為のやり方など細かいレクチャーを受けていた。


 ──だがしかし、時雨はパソコンなどの知識は全くの皆無。その為、操作の仕方を一向に覚えられず苦悩の日々を過ごしていた。


 新人として誰もが通る道で、誰もが苦悩する時間なのだと言うけども。時雨は飛びっきりで機械のセンスというものが無いらしい。


 既にDay.3。……3日間もZweiに通っての練習続き。

 なんとかスタート画面から配信画面を出すことには成功したものの、画面の細かな設定やらコメントの設定やらやら……特にマイクなどの音響設定は訳が分からないよぉ~


「うーん、これじゃあ先が思いやられるわね」


 と、頭を悩ませつつも決して見捨てなく見守ってくれる佐々木さん。まだまだ短い付き合いだけど、頼り甲斐のある人だと既に分かった。




 そうしてZweiのVTuberになる為に色々と準備もして置く。例えば、実際に配信でプレイするゲームなどは自分で買わなければならない。それは各配信者に一々買っていたら費用が半端では無いからという理由がある。


 だが配信機材という括り……パソコンやマイク、編集や配信に必要な機材は会社で諸々準備してくれるそうだ。


 まぁ、時雨は新人で何の実績もない。その為、スペックも低いパソコン一式と使い方の分からないマイクのみの支給だけれども。それは徐々に実績を積み重ねるしかない。


「ほらほら、早く配信について学び終えないと、初配信が迫って来てるわよ」

「う、は、はい…」


 そう、なんと時雨は合格が決定してから1ヶ月後に初配信を控えていたのだ。それは異例中の異例であり、まだアバターやキャラ設定なども決まっていないのにだ。


 それほどまで…時雨に期待が寄せられていると言えた。


「それと、貴方は高校生なんだから身バレ対策もしっかり考えておかなきゃね」

「あ。そうでした。

………

因みにひばりちゃんは…どうしたんですか…?何か特別なことをやってたんですか?」


 時雨は ひばりちゃんが高校生配信者だということを知っている。だが、やり方など詳しくは知らなかったのだ。


「……ん?四季が高校生の頃から配信者になったって知ってるのね」

「あ……えっと、まぁ。はい」

「あの子、口が軽いのが欠点なのよね……」


 時雨の失言により、明らかに不機嫌になる佐々木さん。

 頭の中でひばりちゃん……いや、四季さんに土下座して置こう。


ごめんなさい~(;ω;)


「えっと、四季ね。四季は確か……うっすらとボイスチェンジャーを使用していたわね」

「ボイスチェンジャー…ですか?」

「ええ、本当に微妙な変化をつけただけよ。声を変えすぎたら自分の声じゃなくなってしまうものね」

「それも…そうですね」

「口調やイントネーションを変えたりするのも1つの手段ね。そういう身バレ防止手段は雅坂さん自身に任せるわ」


「………はぁ。わかりました」


 自分のVTuberとしてのイメージがまだ湧かず、自信も無く。不安ばかりな時雨はただただ配信に向けて全力で今あるコトに取り組むだけであった。


 ☆☆☆


「さぁ、早速だけど……貴方のキャラクターアバターが完成したわよ」


 高校で勉学を学びつつ、Zweiにて配信について学ぶ。そんなハードな生活を過ごして約3週間。多少の知識を身につけ自信が徐々に付き始めていた頃…


 唐突に佐々木さんに言われ、見せられた1つの画面。

 そこには1人の……美少女が映っていた。


 銀髪のショートカットにエメラルドの煌めく瞳、神秘的で悪魔的な両翼を持つ可憐な美少女。でも、表情はすごく穏やかで少し控えめそうな性格。


自分で言っちゃなんだが、凄く自分らしくあった。


「か、可愛い……」


 …あまりのキャラの完成度の高さに、時雨自身本当にその子を演じられるのか、心の奥底で不安になる。


 だけど、口から漏れる1 VTuber大好き人間の本能に逆らえなかった。


 アクティブスキル……『極度のVTuberオタク』──再び発動ッ!








「えっと…佐々木さん。この子の名前って…………なんて言うんですか?」

「天月 カグレ、よ。コンセプトは“皆に多くの笑顔を届ける為に降臨した堕天使”。細かな設定は自分で決めるといいわ。じゃ、このキャラと一緒に、雅坂さんも成長して行って欲しいわね」

「っ…はい!」











「──よろしく、天月カグレ。私の名前は雅坂 時雨だよ。これから一緒に頑張ろうね。これからいっぱいいっぱい配信しようね!」


 そうして時雨がZweiの特別オーディションに合格してから1ヶ月の月日が流れ……とうとう初配信の日を迎える。

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