第13話 オーディション終了
圧倒的な試合が終わり、会議室は静寂に包まれる。その間数秒……言葉にならない時間が過ぎる。
時雨は“勝利”したことにより、いつものオドオドした状態に戻り先程までの覇気は無い。
「ふぅ……」
少しの余韻と雰囲気で自分の勝利に酔いつつ、時雨は周囲を見渡す。
佐々木さんは驚愕の表情を止められず、口をあんぐりと開けて固まっている。
ひばりちゃんは「あちゃ~♪」と言葉が漏れ、悔しそうだった。
「…………楽しかったよ、シグシグ♪」
「あ、えと。えと、わ、私もです。まさかひばりちゃんと『スマファミ』が出来るなんて思っても見ませんでした」
多分、一生の思い出として語り尽くせるだろう。
「そっか…でも。強かったねぇ、シグシグ。最後の3ストック目は手も足も出なかった。即死コンボの練度も精度も凄いし、シグシグがこのゲームが得意だって凄く分かったよ♪」
ひばりちゃんは大きな声で時雨を褒めてくれる。
多分、佐々木さんにもしっかりと聞こえるように…
時雨の評価を少しでも気にしてくれたのだろう。
そうして、ひばりちゃんとの仲を深めていると、
「──まずは、勝利おめでとうございます、雅坂さん」
「あ、えと。どうも」
ようやく気持ちの整理がついたのか、佐々木さんが話し掛けてきた。手には先程まで書き殴っていたメモ帳が握られている。
「これで、本日のオーディションは終了にさせていただきます。お疲れ様でした。審査結果は会社でじっくりと協議させてもらい後日連絡しますね」
淡々とテンプレを話す佐々木さん。
だが、妙に顔が高揚し興奮気味のようだ。
そして時雨に(恐らく佐々木さん宛の)連絡先を渡し、会議室から出ていってしまう。
残された時雨とひばりちゃん。
「へぇ~ササキんもあんな顔するんだね♪」
と、一言コメントを残す。
「え?」
時雨には何が何だかさっぱり分からなかったが、それなりに付き合いの長い2人。その為、佐々木さんの一瞬の表情の移り変わりにひばりちゃんだけが気付いたのだろう。
うん、それが“いい方向”なのだと信じて祈っておこう。
「まぁ、なんだかんだで。やったね~これで、高校生仲間が増えるよ♪」
「……………………………え?は、?ま、まさか…!?」
その発言だと、つまり!?
「あ。そっか。そうだよね。実の所、私もまだ高校生なんだよねぇ~」
「えぇぇぇ!?」
( ゚д゚)!?
それは唐突のカミングアウト。
だが、今の時雨に多大な希望を持たせるカミングアウトであった。
「じゃあ、改めましてよろしく。
「えぇぇっ!?」
そんなこんなで特別オーディションは幕を閉じた。
今すぐにでも結果を知りたいと抗議したいところだけど…そんなメンタルは時雨に無く……今日はひばりちゃんのサインと連絡先を貰ったから十分にヨシとしよう。
うわぁ♡嬉しすぎるよぉ~
気長に結果発表を待つことにしよう。うん。
☆☆☆
「中々、良かったかも……」
佐々木は息を切らし、Zweiのマネージャー部署まで戻って来た。そこには今回の特別オーディションを担当している同期もいた。
「へぇ、佐々木がそんなアツくなってるってことは最高にアガった子だったんだね」
「そ、そーなのよ!
まだまだ指摘したい課題もあるし、荒削りな部分も沢山あるけど、その全てを間違わずに丁寧に磨けばダイヤモンドにもエメラルドにもサファイアにもなる美しい宝石のような才能ある子だった」
「ほぉほぉなるほどなるほど。いいじゃない」
珍しく興奮気味な佐々木に、同僚は少し物珍しそうに見守る。同期から見て佐々木はいつもストイックで、仕事に真摯に取り組むエリートに映っていた。その為、彼女がそこまで高揚すること自体珍しい出来事だった。
佐々木は……雅坂 時雨という少女に1つの夢を見た。
彼女というVTuberが視聴者から大歓声を浴び有名へ駆け上がっていく姿を…
「じゃあ、今回の特別オーディションの合格者は決まりでいいわよね佐々木?」
「ええ、この子でお願い」
「じゃー、マネージャーは……佐々木やる?」
「もちろん、はなからそのつもりよ」
「じゃ、よろしく頼むね」
そうして、Zweiで極秘に企画された大きなイベント。その特別オーディションが幕を閉じた。
応募人数を限りなく減らし、選りすぐりの
それは……もちろん、『雅坂 時雨』だった。
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