第12話 天月カグレの片鱗
「あらら…」
ゲーム画面を見て、佐々木の気持ちは“残念”という感情で一杯だった。
雅坂 時雨…さん。
佐々木は稀に見る逸材だと確信し、密かに期待をしていた子だった。
ゲーム…得に『スマファミ』が得意(書類上)だったり、顔がモデル並みに良かったり、声質も実際に聞いてみて綺麗で
なにより、彼女自身がVTuberを大好きな部分に大きな共感を得られた………なのに、なのに。
──────非常に、非常に残念だ。
実際に実力を見てみようと急遽、腕試しを開催したら……これだ。ありもしない
これでは、どれが本物で、どれが嘘かすら分からない。
VTuber好きもとても信じられなくなる程に、信用という部分でかなりのマイナスイメージが既に佐々木の中にはあった。
……緊張?それでも多少の反撃ぐらいはあるはずだろう?それすら出来ないほどレベルが違うのか?嘘つきなのか?
確かに多少の圧は掛けたつもりだ。
言葉でなく雰囲気という形のない
だけど、その“程度”だ。
その程度の圧を自分の力だけで乗り越えられないくらいじゃ、話にならない。逸材だとか、才能だとか…それ以前の話になる。
やっぱり…ダメなのかしら。毎年毎年が豊作って訳でもないものなのね。自分の“カン”が少しだけ訛ったのかと自分自身を残念に思いながら佐々木はゲーム画面を見つめるのであった。
☆☆☆
「あはは、ゼッコーチョーだよ」
意気揚々と笑顔を見せるひばりちゃん。
まぁ、そーだよね。
だって、ほとんどノーダメージで時雨の3ストックある内の2ストックを奪ったのだから。
流石、VIP入りのインク・ロング。技の知識もコンボも隅々まで熟知していて、時雨の戸惑っている内にあっと言う間に追い込まれてしまった。
ぶっちゃけ言えば。時雨にとっては“夢”が掛かった緊張感のある戦い。それに比べ、審査員側でいつも通りのコンディションでプレーするひばりちゃん。
そりゃ、気持ちの面的にそもそも違うよね…という結果だった。
──残り1ストック。それは時雨にとっての運命の1ストック……
状況は誰から見ても絶望的というのは変わらない。
だけど、プレイしているゲームはあいにくの──『スマファミ』
しかもルールが3ストック制で、一つ一つの
「ふぅ…」
2ストック目を落とし、再びステージに戻されて無敵時間が切れるまでの数秒…
時雨は息を吐き、頭を回す。
その間、焦りやら緊張やら不安やら──そういう
そうして時雨の中に残ったものは……
「──勝利する。その為には集中…集中だ。
操作誤差はほぼほぼ無し。ラグは考慮せずにディレイ無しで繋げれば…………ヤレるはず」
誰にも聞き取れぬような小さな声が漏れた。
「さーって、圧倒的に有利だとしても手加減はしないよ、シズシズ!正々堂々と勝負して決着を付ける。
それが春夏秋冬 ひばりちゃんのモットーなんだからね♪」
…と、ひばりちゃんが時雨を鼓舞する声をくれるが、既にその声は時雨には届いていない。
もっと、もっとだ。没頭しろ…
いつも通り、いつも通りに。
やる事は単純な“運搬ゲー”だ。
「ふぅ…ひばりちゃん……えと。ごめんなさい。
………………これから全力で行きます、、」
「え?」
唐突な時雨の発言、それと同時に…ガチナイトの無敵時間が終わり、漆黒の騎士が赤く濁った目を一層狂わせながら地上へと降り立つ。
「1……2……3……GOッ!」
自分でタイミングを取り、一直線にインク・ロングへ突っ込む。
「なんのっ…」
ひばりちゃんの操作するインク・ロングはすかさずインク銃を連射し、牽制をするが……ガチナイトは細かな小ジャンプでそれをスラリと交わし、下必殺技『ディメンション・マント』(マントで姿を隠して任意な場所にテレポートする技)で距離を一気に詰める。
──ガシッ!
そして、難なくインク・ロングを掴むと……実質、
掴みから下投げ。そこから派生して、空中下攻撃と回転しながら斬撃を食らわせる空中
そして、剣を上180度振る空中上攻撃2回と剣を下180度振る空中下攻撃2回。タイミングとダメージ量を上手く調整し、横に連続してぶっ飛ばす。最後に空中後ろ攻撃の横三連切りで大きく切り飛ばしてフィニッシュだ。
……派手な撃墜演出と共にインク・ロングのストックは壊れた。
「え…」
「は……っ。雅坂さん…!?」
その素早い操作から繰り出された即死コンボに、ひばりちゃんは対応すら出来ずにやられてしまう。
「ふぅ…まず、1ストック目……です」
あまりにも、当然の出来事。その為、ひばりちゃんも佐々木さんも形容し難いこの状況に驚愕という表情を浮かべるしか無かった。
☆☆☆
「くっ、まだまだ行けるよっっー」
次の2ストック目は戸惑いを隠せず、早く時雨を撃墜に掛かったインク・ロングを上手く利用して場外へと押し出し。空中技に秀でたガチナイトで徹底的に復帰阻止を繰り返した。
インク・ロングの
何度か復帰阻止を繰り返し、インク切れを起こしたインク・ロングは哀れに場外へと落ちて行った。
3ストック目はもっと単純。
時雨の全力にひばりちゃんは適応することすら出来ず、上へ上へと運ぶ
「え、えと……嘘でしょ!?」
3ストック目をノーダメージという脅威の結果を見せ、腕試しは終わりを迎えた。
そして、それが初めて人に見せる。
天月カグレの片鱗であり、時雨の実力であった。
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