第10話 腕試し


「では、雅坂さん。最初の質問です。

 貴方がVTuberになったとして…………一体何がしたいんですか?お金を沢山稼ぎたいんですか?それとも有名になりたいんですか?あ、っと。これは本当に些細な質問なので、気軽に答えて下さいね」


「えっと、えっと……私は他の配信者の人とコラボして、楽しく配信活動をしたい…………のが1番っ、です」


 時雨は深い思案も無く純粋な気持ちを持ってこれまでやって来た。だから一瞬の間も無く素直に答えられた。


「えっと……ね、すごい素晴らしい事なんだけどね、雅坂さん?貴方って今高校生よね?しかも入学したての新高校1年生なのよね?」


 ん?


「はい、そうですけど?」


 Zweiの審査員の人は「うーぅ」と唸る。何処か言いずらそうに、冷や汗を垂らし……数秒後。ようやく口を開いた。


「──すごく言いずらい事なんだけど、この会社の決まりでね…高校生以下は配信をする時、ある程度の身バレ防止対策をしなくちゃいけないって知ってる?」


「え…?」


 あ、っと。なにそれ…


「だってね、声バレは勿論。身元がもしバレたら最悪退学なんて自体にも陥るんだから。親御さんにも沢山迷惑をかけるし、会社にも迷惑をかける。全てがリスクに関わる存在って理解はしてるの?」


 え……ぁ……っ、と。

 で、でもッ!


「っ……高校生の内からVTuberになった人も居るって聞いたことが、あ、ありますよ?」

「あーそれはね、Zweiの定める条件を全てやるっていう約束をした後、仮契約という形でVTuberになれたのよ。まぁ、あの子は元々才能があったし……もう高校も卒業してウチの看板配信者になったんだけどね」


(へぇー。よく知ってるわね。こういう子がたまに居るのよね、あの子に憧れてって……でも、この業界はそんなに甘くはないのよ)


 佐々木がそう思い、時雨を見つめる。

 気弱そうで、自分に自信すら持てて居ない少女を。

 微弱に感じるそのオーラ。とても大物になれるとは今の時点で思えなかった。


「でも、でも。私はそんな甘い考えで、ここに来た訳じゃありません。例え私が高校生で、色んな制約が着いたとしても、私はやりたいんです」


 時雨はそれでも……夢に向かって一直線だった。


(っ……!?)


 佐々木はその時、少しだけ“期待”という感情が沸いた。

 ……偶然かもしれない、たまたま気持ちが高まっただけなのかもしれない。だけど、一応念の為に……用意していたものを少女に試してみる事にした。


「じゃあ……最後に。貴方の趣味のゲーム……『スマファミ』で腕前を見せてもらいましょうか?」


「え?」


「雅坂さんの趣味はゲームなのよね。その中でも『スマファミ』をよくやって得意と書かれてましたね?」

「え、あ、はい…」


 スマファミは1VS1タイマン勝負がメインのゲーム。例え過疎地域で時雨の周りに対戦相手が居なかったとしても、インターネット対戦がすごく充実していたから……ぼっちな時雨でも腕を磨けたのだ。


 だから調子に乗って趣味の欄に書いたけど……

(ó﹏ò。)ウゥゥ、今からでも書き直したいよォ~

 ゲームの…特にスマファミの対戦では腕に自信があると思うけど…それはインターネットの中でのこと。実際の対面での対戦をした事がなかった為に自分の腕前が一体どのレベルなのかが分からず、不安なのだ。


「ここは大手であるし、オーディションでゲームの腕前とかも見るのが恒例行事ってやつなのよ。

 ゲームはもちろん『スマファミ』。対戦相手はたまたま会社に居て暇そうだった“春夏秋冬 ひばり”ちゃんに相手をしてもらいます!」

「──おなしゃーース!!」


 審査員さんの掛け声と同タイミングで会議室に登場した1人の少女。


 それは……それは………………ッッッ!!!


「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???

 ほ、ほ、ほ、ほ、本物ぉぉぉだぁぁぁぁぉぁ!!!」



 アクティブスキル……『極度のVTuberオタク』 ───発動ッ!




 ☆☆☆


「はわわわわ……」


 時雨の目の前にいる1人の少女。

 ──春夏秋冬 ひばり ちゃん。


 1年前にデビューしたばかりのZwei VTuberプロジェクト8期生の子だ。ピンクと緑とオレンジと白の4色の髪色を合わせ持つ、大魔法使い兼高校生という設定で天真爛漫で無邪気な美少女。それがひばりちゃん。


 そして目の前に立つ、この人こそが ひばりちゃんの中の人。身バレ対策か……マスクをして顔立ちはハッキリと分からないが、それでも本人だと分かる声のオーラと力強さ。……そして、ひばりちゃん同様に愛くるしいほどに可愛くて、明るい美少女ということは分かった。


「へぇー、キミがササキんが言ってた子なんだね。名前は?」


 …ササキん?

 あ、多分…さっきから説明をしてくれていたZweiの審査員の人。この人が佐々木さんで、その人のアダ名なのだろう。


「あ、えと。雅坂です、」

「下の名前も教えてヨォ♪」


 絶妙な立ち回りで直ぐに時雨の絶対領域パーソナルスペースへと近付くと……顔をグイっと近づけ甘いVTuberボイス至福な声で囁いてくる。


「し、し、時雨…です」


((>_< ;))うぅ……

 時雨にとってVTuberとは等しく尊い存在である。

 みんな大好きで、みんな愛してるのだ。

 例えそれが中の人だとしても、気持ちは変わらない。


「時雨ちゃんね。うーんっと。よろしくね、シグシグ!」

「え、」


 異次元なコミュニケーション能力。

 それに圧倒されつつも、確かに理解出来た。この人が本物のVTuberで、この人が業界で活躍して来た人気配信者なのだと。


「じゃあ、スマファミ。やろっか シグシグ♪」

「は、は、はひ。よろしく、お願いします」


 ひばりちゃんと話せた感動で“シグシグ”というアダ名?にツッコミを入れる事が出来ずに雰囲気に流されたまま、時雨 VS 春夏秋冬 ひばりの対戦が今始まる。

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