第9話 佐々木の失態


 Zwei VTuberオーディション1次選考を早々に終え、2次選考も先程ようやく終わりを迎えた。



 今回、オーディションの審査員をしたのはZwei人事部 数人と新VTuberのマネージャーになるサポート部 数人の合わせて7人。


 その中の1人。

 茶髪のショートカットに、大人びた雰囲気の小洒落た女性。彼女の名前は佐々木。後の天月カグレのマネージャーとなる人物である。

 年齢は27歳。入社5年目で、このプロジェクトのリーダーを任せられる“プロジェクトリーダー”と言うやつだ。




 そんなこんなで初のプロジェクトリーダーを(無理やり)任せられ、後輩達と一緒に地獄を見たっていう話。


 少数精鋭。…言葉の響きは確かに良いが、内容は地獄そのもの。更に、今回のオーディションは会社の大々的な公募により、オーディション応募数がありえないほど多く、それを7人でチェックしろというのは余りに理不尽過ぎて手一杯な状況であった。


 仕事、そしてこのジャンルのプロとして。一人一人を細かくチェックして選別するのが当たり前だ。だが、今回ばかりはそんな余裕も無く、オーディションの1次選考では本当に一瞬で合否を決めてしまった。


 顔写真、特技などよりも…VTuberとして重要な声をパッと聞いて反射的に決める感じ。


 このオーディションは1次選考が終わったら面接の2次選考が控えている。その為、人数はある程度のものにしなければならない。1000人を10分間の内に10人まで選別する感覚というのが1番上手い例えだ。





 ──本当にここ数週間は記憶が残らないほどに過酷であった。それでも、やり通した。

 そんな、ようやく仕事が一段落し、束の間の休憩を取っていると……


「お疲れ様、佐々木。で、どうだった2次選考の面接は?才能の原石とか面白そうな子は居そうなの? 」


 佐々木の同期(今回のオーディションには関係の無い仲の良い同期)が、進捗を聞いて来た。


「まぁまぁ……って所かな。正直に言ってね。

 確かに皆、やる気も自信も感じられたし、各自にちゃんとした武器もあった。だけどまだ磨けば光るかなって言う程度かな」


 これまで、何度か大きなオーディションに携わり…後の大物VTuberになる子達を見て来た。その子達は初めから“そういう”オーラがあった。


 だけど……今回の2次選考で、そういう子は居なさそうであった。まぁ、オーディションだから合格者は何人か居たけど。


 なんてまだ疲れが取れていない頭を適度に回しつつ、パラパラと1次選考で不合格にしてしまったオーディション参加者たちを眺める佐々木。


「あー、この子も。彼も……彼女も、」


 ふと、ブツブツと独り言を呟いてしまう。


「ん、どうかしたの?」

「え。あぁ。そうね、よく見たら……中々いい人材を1次選考で落としてるな、って。後悔って言えばいいのかしら?」

「あらら?いい人材だったのに選考するのを忘れたってこと?」

「いえ、そういう訳じゃないのよ。だって、今回の1番の審査対象が基本的に“声”だったからね。だから、特技とか趣味とか顔とかは二の次で、あまり強く審査してなかったのよ」

「まぁ、確かにVTuberに最重要で必要なのはボイス……つまり、キャラの声。それで今後の活動に影響が出るものね」

「そうなの。視聴者の心を引きつけるような声。

 これからのVTuber界隈の超新星になるような勢いのある新人が欲しかったんだけどね……」


 まぁ、この落としてしまった子達にも……そういうオーラを放つ子が居るとは思えないけども。


「まぁーね。じゃあどうするの、その子達を惜しいとは思ってるんでしょ?」

「一応はそうね、特にこの数人を手放すのは惜しいかも……顔だけで言えば、モデル並みの子も居るし。とあるゲームでプロ級の子も居る。もしかしたらVTuberの才能を開花させる子もいるかもね」


 佐々木は少しため息を吐き、自分が落としてしまった参加者たち……その中でもかなり良さげな子達数人をリストアップして同期に手渡した。


「じゃあ、今度ある別のオーディションに特別枠で推薦しといてあげる。もちろん佐々木と私の2人の名前を使ってね♪」

「え、本当に?」

「おkおk、だって初めからその話をしたくて来たんだからね♪」


 どうやら、次のオーディションはなるべく応募人数を減らしたいとのこと。理由は分からないが、佐々木的には…結果オーライなのだろうか?


 ということで、今回1次選考で落としてしまった数人を特別枠として別のオーディションに推薦してもらうことになった。





 これが、佐々木にとって人生最大の“後悔”を生むことになるとは……今の疲弊した彼女が知る由もない。


 ☆☆☆


 時雨がオーディションに落ちてから約1ヶ月後。

 流石に時雨もオーディションに落ちた悔しさを吹っ切り、東京の高校に徐々に慣れ始めた頃。


「えっと……次は、、雅坂さん。雅坂 時雨さん~どうぞ」


 明るく、通る声で名前を呼ばれる。


「は、は、は、は、はいっっっ……!!!」


 言葉が空回りして噛み噛みになるも、何とか反応する。


 ここはとある会議室。シンプルな会社の物置?のようなゴチャゴチャした所に白のチェスター付きの長テーブルとイス(数台)が対面で置かれている。


 そこに時雨、迎えに2人が座っている。


「では…ま、まず初めに。ようこそ、Zweiへ」


 そう、この場所はZweiの会社の中であり、今日は時雨含め数人が集められ、特別なオーディションが行われるらしいのだ。


 何故時雨がここに呼ばれたのかはハッキリ言って不明。特に審査員の目に留まる特徴は無かったと思ったけど……うーん、分かんないや。


 さっき、待合室で時雨と同様に呼ばれた人達を覗いてみたけど……うん。みんなイケメンだし、カワイイし、美人。どうせ、様々な個性を持ち合わせているんだろうね。


(´Д`)ハァ…


「──まず、最初に。先月のオーディションお疲れ様でした。時雨さん含め、どなたも大変惜しい結果で不合格という形で終わってしまい。当社としては惜しい人材を逃す訳には行かないという対応を取ることに決定し、今回の特別オーディションに参加して頂いたという訳です」


 畏まって謝罪するZweiの人。

 だけど……


「っっ!!」


 理由を聞き、時雨は多大な嬉しさに身を震わせていた。

 こんな自分を見てくれ、選んでくれた。新たなチャレンジをわざわざ貰えたという事の嬉しさだった。


「それで…………大変、勝手かと思いますがこのオーディションに参加して頂けますか?宜しければ、そのまま面接を始めますが……」


「え……あ、はい。よ、よろしくお願いします!」


 即答とは行かなかったものの、気合いの入った声で答える時雨であった。




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