第6話 成敗され……


『勝者は森羅ムニっっっっーーー!!!!』

『ほーらな、やっぱり』

『最後は天月カグレが勝つかと思ったけど、やっぱりこの人なんだよなぁ!!!!』

『俺たちの英雄……“森羅ムニ“”っっっ!!!』


 コメント欄を数分ぶり久しぶりに見ると森羅ムニを褒めるコメントばかりで溢れていた。カグレが負けたことに対しての“煽り”のコメントも多少はあったが、それでも『いい勝負だった』と賞賛のコメントの方が多いぐらいだった。


 予想ではかなり煽られ罵倒されるのかと思ったけれど……最後の試合が激選だったからかな。まぁ、取り敢えずは良かった。


 だけど、負けは負け。しかも……3連続での敗北。言い逃れが出来ないほどの大敗だ。煽り系配信者として全力で戦って負けて……成敗された。悔しさは別に無い。だって全力の全開で全てをさらけ出して戦った。自分のプレイスタイルも捨てて、我武者羅に戦った訳だしね。



『じゃあ、よろしく~』

『そそ、あの件だよ~』

『忘れたとは言わせないよォ!』

『言質は取ってるから逃げられないからネ!!』


 コメント欄では、カグレが自ら己に課した企画のツケを払えとわぁわぁと騒いでいる。


「うぅ、ヤルよ、分かってるヨ…」


 ボイスチェンジャーでガチャガチャな声でも分かるような震えた声……理由は明白。これまでずっと秘密にしていた素性の一部を公開するのだから。放送事故でも無く、機材トラブルでも無い。自らの手で“晒す”のだ。


 はぁ……何って言われるんだろうか?何って思われるんだろうか?


 今までは声や顔を公開せずとも、VTuberとして見た目は保証されており、顔出しも不可でOKだった。だが“声”という部分はとても重要な部分であり、それが一番良く目立つのだ。


 今まではボイスチェンジャーを使い声を変えていた。

 とある理由で変えていたのだが……意外にもプレイスタイルと合っていてそれが自然と定着し、当たり前になっていた。


 だから……今更地声って……嫌だよ、ねぇ。


『なんか……カグレ酷く弱々しくないか?』

『え……?確かに言われてみれば』

『もしかして女の子だからビビっちゃったり?』

『いやいや、有り得んだろ。正体不明の煽り系配信者の中が女ぁ?まるで現実的じゃないね』

『確かにな、ゲームも上手いんだし……女子だったらまぁわざわざ煽ったりする必要が無いよね、ゲームが上手いだけで視聴者は自然と増えるもん』

『それな、じゃあーやっぱし、男確定コースで!』


 コメント欄で大体の予想が建てられ終わったのと同時に、


「……っっ、じゃあイクで」


 ──カチっ、

 震える手を抑えつつ、いつもの操作をしてマイクのボイスチェンジャー機能をオフにする。


 そして……


 ☆☆☆


『さぁーて、鬼が出るか蛇が出るか……』

『まぁ予想はブ男のキモボイスかなぁ』

『マジ?音量下げといた方がいい感じ?』

『いやいや、せっかくここまで視聴したんだし、聴いてやろうぜ、今まで隠してた秘密ってやつを』

『男でいいから、イケボイス希望!!』

『オレは案外楽しみだぜィ☆だって散々素性を隠して来たってことはかなーりの裏があると思うんだ、しかもVTuberでだぜ?』

『ほぉー、考察系視聴者マジ感謝。音量MAXにして録音します!そしてすぐに切り抜きデースぅ』

『いやいや……地味にキモ視聴者いるのワロタww』


 なんて……コメント欄は盛り上がってる。

 多分、今から声を発したらもっともっとコメント欄は盛り上がる事だろう。恐らく別の意味でだけども。


 はぁ……怖いよ。

 畏怖か驚愕か、それとも同時か……


『じゃあ、お願いしマース!』


 視聴者のコメント合図に合わせて、カグレは大きく息を吸った。







「──ど、どうも……こ、こ、この度は、す、す、すいません…っ、でひた(´;ω;`)」


 震えた小さな声。今出来る最大の声を腹から出したつもりだった、だけど緊張と恐怖でまともに声が出るはずも無く……マイクが聞き取るギリギリの声量しか出なかった。


 それでも……視聴者たちを黙らせるには十分であった。


 若い娘特有の艶々とした潤いのある綺麗な声であり、よくゲームなどで聞くロリっ子ボイス。正しく、天月カグレというキャラにマッチする相応しい声……それが天月カグレの中の人の声であった。



『『『『『『えええええええええぇぇぇ!!』』』』』』



 全員が全員、驚愕の声を上げる。

 予想を大きく上回る“上物”がたった今出現したのである。驚くのも致し方が無いことなのである。


 先程まで荒れに荒れていたいつも通りのコメント欄。

 だがカグレの生の一声により、嵐のように乱れていたコメント欄はピタリと止んだ。


 そして直ぐに驚愕という1色で全てを塗りつぶした。


 そう、天月カグレとは……ボイスチェンジャーで身バレを限りなく避けていた1人の女性配信者であったのだ。





『──いやいや待て待て、裏声で女に化けてる男かも』

『そ、そ、そうだよ。釣りの可能性も……』


「──わ、わ、私。でも、配信は続けます。だ、だ、だからまた見に来て下さい…ね」


 かなりの動揺を含みつつも、丁寧な女口調。いつもの煽り口調などは全くの皆無。更に今までの一人称も忘れ、1人の女として喋ってしまう。


『はひっ!?』

『は、反則だろ……!?』


 先程までの釣りの疑いは一瞬で弾け飛び、視聴者は大歓声を上げた。









 そうしてオドオドしながらその日の配信を閉じたカグレ。だがその日のうちに、当たり前のようにネットニュースになっていた。

 内容は……《煽り系配信者 天月カグレ 成敗され、遂に声出し!!》という大々的な見出しである。更にカグレの性別や配信の切り抜きのURLも貼られており、その日のうちに“カグレの初声出しの瞬間の切り抜き”は大バズりをしてしまうのである。


 一応……カグレは配信が終わった直後に「誰にもこの日のことは他言無用でお願いします」とTwitterで呼び掛けたが……もはや無駄であった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る