第5話 ゲームセット


《……3……2……1………………レディ GOッ!》


 勝っても負けてもこの1戦で全てが決まる。

 破滅か……継続か……それ以外の選択肢は無く、たったの数分で決着が着く世紀の大勝負が始まった。


 数多くの視聴者がカグレの敗北に期待し、森羅ムニの圧勝を望む中……少なからずカグレへの勝利の期待を寄せる者もいる。

 ──────それだけでカグレには十分だった。




 試合がスタートした瞬間、今までだったら牽制だとか逃げだとか場を乱しつつ隙を伺う……というのがカグレのプレイスタイルだった。だけどそれが森羅ムニには通じなかった────だったら、


「イケッ!!!」


 カグレのガチナイトは試合が始まった瞬間に、お構い無しに森羅ムニへ突っ込んだ。別にヤケになった訳でも、脳死で行った行動でも無い。カグレの動きが森羅ムニによって研究されているのならば、いつもやらないオリジナルの戦法を使ってやればいいのだ。


 まぁ、普段しない動き=慣れず実質賭けギャンブルであるけども。


(……!?)


 カグレの作戦は見事的中。森羅ムニはいきなりの攻めでペースを崩し、その流れでカグレのガチナイトの“掴み”があっさりと成功してしまった。


「よし、イクゾ!」


 ──ここからが、天月カグレとしての腕の見せ所だッ!


 ガチナイトの即死コンボ……相手のぶっ飛び具合を調整しながらキャラを場外へと無理やり運ぶコンボ。急降下や小ジャンプ、読み、ダメージ管理、様々な状況を上手い具合にかち合わせないと確定しない非常に難しいコンボである。


 掴みからの連続蹴りの下投げを選択、そして低い位置で飛んだガノンウルフをそのまま剣を下へ薙ぐ空中下攻撃と横回転三連切りの空中後ろ攻撃で場外へと軽くぶっ飛ばす。


 そのまま相手が何もすることが出来ない状態を継続させながら、即死へとコンボを繋いで行く。


 剣を上方向に180°振る空中上攻撃、からの空中上攻撃、急降下着地でジャンプを回復させた後、すぐに空中上攻撃……空中上攻撃。

 細かな小ダメージの技を多段にヒットさせ、少しずつキャラを上へと運んで行く。


「っ……あと少シ!」


 森羅ムニはタイミング良くズラしを入れ、先程の試合と同じようにコンボから抜け出そうとするも──────


「流石ニ慣れたゾ?森羅ムニの焦っタ時のコンボ抜け癖ってヤツを」


 森羅ムニも結局は人間、癖もあるし動揺もする。

 それをこれまでの敗戦で読み切ったカグレは……コンボを抜けられた瞬間にまた無理やりキャラを巻き込む技を使い、決して逃がさなかった。


『お、お、お (期待)!?』

『これはやるかーぁ?』

『あとちょい!』


『え、え、ヤバいて』

『森羅ムニ、ズラせぇぇぇぇぇ!!』

『ありゃぁぁぁぁー』


 そうして……


「1……2……3、OKッ!」


 フィニッシュに上必殺技『シャトル・ザ・ループ』(ガチナイトの上下回転を大きくしながらの高速斬撃攻撃)により、森羅ムニのガノンウルフは画面外へ高く打ち上げられ、空の彼方へと消えて行った。


『キター、カグレの十八番っっっ!!!!』

『うめぇーーーーー!!!!』

『よくやり通した!流石最強ガチナイトプレイヤーだ!』

『おおおおおぉぉーーーー、決まったァァァァ!!!!』

『これが見たかったんだよぉぉーーー』

『スゲェ……即死コン2連チャン、ダメージパーセント変わってムズいのによく決めたなぁ』


 そしてその瞬間──初めてカグレが森羅ムニの1ストックを奪った瞬間であり、初めてカグレがリードした瞬間でもあった。


 ☆☆☆


『お~ぉ!!』


『あちゃー!』


『いけ、そこそこ! うめぇーー!』


 いつの間にか勝負は接戦を繰り広げており、圧倒的なパワーと読みで圧倒する森羅ムニ、そして即死コンボ+‪αのオリジナルコンボで確実にダメージを与えて倒す天月カグレのラスト3戦目はどの試合よりも白熱していた。


 そうして……

 互いにストックは1つのみ。更にダメージも互いにかなり負っており、両者とも次に強攻撃を食らったらアウト…という具合に接戦をしていた。


 状況から見るにカグレがかなり劣勢である。

 何故なら、カグレの持ち味であり得意な即死コンボは既に使えないからだ。


 即死コンボはまだダメージをあまり受けていないキャラに使うことに真価を発揮し、早期撃墜をする為の技だ。その為ダメージをかなり食らっているキャラにはコンボどころの話では無いのだ。


 そして森羅ムニのガノンウルフはどの技も高い攻撃力を持ち、重量級のぶっ飛びにくいキャラである。軽くぶっ飛ばし力の強い技を余り持たないガチナイトは絶体絶命であると言えた。


「…………ふぅ、」


 カグレはこの一瞬の為にありったけを込める。決して後悔なんてしないように、全力全開で集中する。


 これこそ、例えるならば……時代劇の侍で言う“居合”であり、西部劇で言う“早打ち”である。どちらが先に動けるかのスピード勝負だ。


 速さならこちらが圧倒的に上。だったら、一瞬で終わらせてやる!そう意気込み、覚悟を決めたカグレのガチナイトは最速の一撃下スマッシュで終わらせようとした。


 だが……


「へ……!?」


 森羅ムニのガノンウルフが使用した技は………通常ニュートラル必殺技である『魔王拳』


 魔王であるガノンウルフの闇の力を全て拳に溜めて解放する最強の一撃。だが、ガチの対戦では隙が余りにも大きくカウンターを食らうという実質ネタ技の1つだった。


 その技を森羅ムニは最後の最後で選択チョイスした。

 なぜって……?その技は多少の攻撃を食らっても影響を受けず、お構い無しに技をぶっぱなす“スーパーアーマー”が付いているからだ。


 カグレはガチナイトの最速の技(威力は低め)で倒そうとした。それを森羅ムニに読まれたのであった。


 ──ザシュ、

 …………ガァァァァァァァァォァォッ!!!


 ガノンウルフはガチナイトの斬撃を食らっても怯まず、最強の闇の一撃を咆哮と共に示した。



「ギゃャャャャャぁぁぁぉぁぁァァァォ!!!???」


 カグレの絶叫と共に、《ゲームセットッ……!!!》というアナウンスが流れ……激闘な試合はカグレの3連敗という形で幕を閉じた。

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