第3話 冷静さに欠ける=雑念でしか無い


『すげー、どうなるんだこの激アツな勝負?』

『どっち勝つんだろうな…やっぱ森羅ムニか?』

『いや、分からないな。キャラ相性的には天月カグレが使うガチナイトの方が有利だしな』

『軽量キャラだもんな……』

『いやーでも即死コンの対策は当たり前のようにしてるはずじゃね?あの森羅ムニだぜぇ?』

『そだな、じゃあ───パワーで壊すか……即死コンボを決め通すかだな。すごく面白そう!』

『そやな!!』


 コメント欄は既に大盛り上がり。

 投げ銭はいつもの数倍は軽く超え、通常のコメント+アンテコメントでまともにコメントを拾えないくらいだ。

 更に他の配信者達も噂を聞き付け続々と集まって来ており、この世紀の一戦を今か今かと見守っていた。


「へぇ、すごいジャン……」


 それをカグレは冷や汗をかきながら見ていることしか出来なかった。だって、この勝負……勝っても負けても、嫌な予感しかしないのだから。


 ☆☆☆


 勝負はアイテム無しの3ストック制、ステージは終点(台やステージギミックが無いガチンコ勝負向けのステージのこと)固定。これは大型大会の基本ルール そのままであり、カグレのキャラにとっては少し苦手やりづらいステージであり、森羅ムニのキャラにとってはかなりりやすいステージだ。


 カグレのキャラのコンボの仕様上、なるべく高い所からコンボを始動させたい……だが、終点だとステージが並行な為やりずらい。

 コンボに頼らない戦い方なら構わないのだが、それはカグレの戦闘スタイルでは無いのだ。


 ……だけど、そんなものは負ける理由にも要素にもならない。それでもし負けても、単純な練習不足と自分を卑下するだけだ。







《──レディ……GOッ!!!》


 試合が始まった瞬間、双方は反射的に距離とる。

 どちらともトップクラスのキャラの使い手であり、1度ペースに乗せてしまえば“撃墜”まで一瞬であることは互いに分かりきっている。その為、既に独特のタイミングの読み合いが始まっているのだ。


 カグレにとっては“掴み”からのコンボ始動を狙いたいのがマストだが……まずは絶妙な立ち回りで懐に入らせない戦法を摂ることにした。ガチナイトの漆黒の翼を羽ばたかせながら、空中→地上→空中を細かく行き来し相手を翻弄する。


 そして、油断して突っ込んできた所を刈り取る。そこについでかのように“煽り”を組み込むのがカグレ式だが、今はやめておく。

 理由は単純明快、そんな悠長なことやっていたら試合が終わるからだ。


 久方ぶりのガチ真剣モード(煽りや挑発をしない)でカグレはキャラを操作する。


 ……が、森羅ムニのガノンウルフは突っ込んでこず冷静で静かに隙を狙っていた。


 なら……こっちだって、ひたすら待ちだ。

 下手に突っ込んで反撃を貰うより、待ってからのカウンターの方が最善と判断したのだ。


 そして、数十秒。

 互いにノーダメージで進む戦い……


 おそらく、コメント欄は大荒れだろう。だって、激戦を期待して視聴している視聴者がほぼほぼ大半だからだ。それなのに互いに攻めず、つまらない立ち回りをしているのだから。


 カグレはそういうのに慣れている。何故ならそういう戦法しかやらないからだ。

 どういう内容の戦いだとか、激戦だったとかは……正直どうでもいい。勝敗が“勝ち”を示してさえいれば良いのだ。


 じゃあ、森羅ムニは……?




 ────ドガァァァォォァンッ!!!


「はぁ!?」


 …………っ!?

 一瞬の気の緩み、それを分かっていたかのように森羅ムニはタイミングを合わせ攻撃態勢を取っていた。

 くる!?と思った瞬間には既にカグレは反応に遅れていた。


 ガノンウルフの下必殺技である『烈鬼滅脚』(闇の力を纏い地面を這うように高速移動しつつ蹴りを入れる足技)を使い、いきなり距離を詰めてきた。

 その技自体はかなり強力で与えるダメージも移動する距離も高い強技だ。だが後隙がかなり大きく、プロならカードされてカウンターを食らうこともしばしば。カグレだって、そのままコンボに繋げることもある程だ。


 カグレの油断+着地の一瞬の後隙を付かれ、どうすることも出来ない状態。


「やばっ!?」


 気付いた時にはガチナイトはモロに技を食らっていた。


「え……、エぇっ……ソンナ!?」


 更に技の後隙を無くす裏技もしれっと使っており、追撃を更に連続で食らう。森羅ムニの独特な高度な読み合いに負けたのだ。


 空中下攻撃……からの空中下攻撃。

 ガノンウルフの有名なメテオ(下へたたき落とす)攻撃である。


 連続で空中攻撃を食らい、確定でガノンウルフの十八番……スマッシュ攻撃(ぶっ飛ばし効果の高い技)で早くもカグレは1ストックを落としてしまった。


 まだ、森羅ムニのガノンウルフは1ダメージも食らっていない。


「ぐ、まだまだァァァァ!!!」


 あまりの華麗な撃墜に勿論カグレは動揺を隠せなかった。まさか、自分がこんなにもあっさりやられるとは思わなかったからだ。


 冷静さに欠ける=雑念でしか無い。

 その為、コンボを上手く繋げられないカグレはそこから1戦目、2戦目まであっという間に敗北を喫してしまうのであった。





 あと一戦。負ければカグレは自分の企画に従い、初の声出し……そして森羅ムニに“成敗”されることになる。






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