第2話 憧れの人
ゲーム画面に映る憧れの人の名前……
「っ……森羅……ムニさん」
素の反応をしてしまいついつい いつもの煽り口調が解けてしまうが、それも致し方が無い。それ程までに森羅ムニとは大物の配信者であり、天月カグレにとっては尊敬の対象なのである。
そんな大先輩とゲームでマッチングしてしまった……
「偽物の可能性もあるカモ………」と、思ったが。
『チェックして来たけど、今森羅ムニ配信やってるぞ♪』
『ま?じゃあ本物ってことか?』
『そそ♪本人もカグレ倒す〜♪って意気込んでる』
『うぉー、激アツ展開キター』
げぇっ、今 配信やってるのっっ!
じゃあー、つまり……この人は間違い無く森羅ムニさんなのか?
「っっっ!!!???」
敗北の恐怖や企画の初声出しの恐怖、様々なストレスがカグレを襲う。だが、そんなもの気にならないくらいにカグレは喜びに身を震わせていた。
なにせ、カグレにとって目標だった森羅ムニとの“初コラボ”があっさり達成してしまったのだから。今は配信をしているのだと自我をギリギリ保つも、ずっとずっと憧れていたカグレが“配信者を目指すきっかけの人”にスナイプされたというのがどうしても嬉しかった。
──今の実力じゃ、多分勝てないかも。
ゲームで言うプレイヤーの実力を一目で見て分かる
天月カグレ……レート約760000 日本ランキング31位
森羅ムニ……レート約840000 日本ランキング6位
………………うん、キッツぅ~
天月カグレは30位台後半、森羅ムニは1桁順位。
このレートは1つのゲームの基準にしか過ぎないが、それでもここまでの差が両者にはあると簡単に知らしめていた。
だけど…だけどカグレにだって負けられない理由がある。たとえそれが森羅ムニ相手だったとしてもだ。それに敗北以上の幸福感が得られる事に違いは無いことは分かっていた。
だから……
「へ、へぇ……森羅ムニ……ねぇ!相手二とって不足はナシだね」
自分なりに強気に出れた。
『なんか声震えてね?』
『ビビってんじゃね?流石にww』
『なんか無理してる感じある。先輩だからか?』
『まぁ相手が相手だもんな』
『でも、企画忘れんなよーカグレw』
カグレの明らかな動揺を視聴者も察したのか、コメント欄は更に盛り上がりを見せカグレを一層煽る。
「ちょ、企画…?忘れないし、声はボイスチェンジャーの不具合ダシ。ワイは今日は無敗で終わるから!」
『言質なー』
『それそれ、声出し楽しみにしてるからー』
『ま、せいぜいボロ負けはすんなよー』
まだ試合すら始まっていないのに、カグレの強気な言葉は直ぐに一蹴された。
「お、オイ。初めからワイが負けるみたいに言うなヤ、」
その時、既に視聴者たちは察していた。
この配信は神回になると……
正体不明の天月カグレを森羅ムニという英雄が成敗する。勝敗は関係なく、その対決だけでも面白さが溢れ出てくるのだ。
視聴者が視聴者を呼ぶほどこの配信の注目度は凄まじく、同接数がたった数分の内にカグレの最高同接数3万人を優に超え、4万人以上になっているという事に……気付きもしない緊張し切ったカグレ。
手汗を一振で虚空へと飛ばし、使い古したプロコントローラを手に握る。ばあちゃんに誕生日のプレゼントで買って貰った大切な宝物。だからいつもカグレに勇気をくれる。
「ふぅ……イクZOY☆」
変なテンションになりつつも、天月カグレVS森羅ムニの戦いがついに始まる。
☆☆☆
今回プレイするゲームは天月カグレとして1番腕に自信があるゲーム……大乱撃 スマッシュ・ファミリーズ(以下『スマファミ』)という世界中の人々に大人気な愉快なパーティゲーム……という名のガチのアクション対戦ゲームだ。
使うキャラは配信当初からずっと使い続ける愛用キャラの“ガチナイト”。丸い一頭身の可愛らしいキャラとは裏腹に、黒い鎧を着た暗黒騎士。
大人気ゲームの『星のカーヴィ』のライバルキャラで、黄金の剣を素早く動かし、即死コンボを主に狙うテクニカルなキャラだ。即死コンボ……つまり操作難易度はかなり高い。だが、カグレは難なくそのキャラを扱う。
誰よりもそのキャラを使い、誰よりもそのキャラを知り尽くした繊細な操作から繰り出す異次元の即死コンボ。それがカグレが煽り系配信者として上に駆け昇った1番の秘密である。
けれども。生憎、相手は森羅ムニ。
大型大会でも数多くの成績を残し、プロ顔負けの実力を持つ天才配信者。
使うキャラは“ガノンウルフ”
謎解きアクションファンタジーゲームの『デルダの伝説』のラスボスキャラで、強いパワーと耐久力を有しており一瞬にして相手を“壊す”のに特化した超パワーキャラ。
操作は単純明快、圧倒的に優遇されたパワーofパワーをただブンブンと振り回すだけ。その為、初心者向けのキャラという括り…だったが深く深く深淵に届くほどガノンウルフを極めた森羅ムニはそれに唯一当てはまらない。それ程までの異次元な強さである。
「ふぅ……やるしか無い。
誰にも聞こえない、配信にものらない細い声でカグレは自分を鼓舞する。
《……3……2……1………………レディ GOッ!》
対戦開始のアナウンスが流れ、いざ対戦が始まる。
この森羅ムニとの対戦でカグレの人生がこれから大きく変貌することに、まだカグレは気付いてすらいなかった。
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