煽り系配信者のワイ、成敗されて美少女バレする

かえるの歌🐸

第一章 カグレが成敗されるまで……

第1話 煽り系配信者 天月カグレ


 ──カチャカチャカチャカチャ!

 部屋に鳴り響く、激しいコントローラーの操作音。

 一つ一つの動作にどれも迷いは無く、とても慣れた手つきで愛用キャラを操作する。


「うェーい♪♪オちゅかれサマで〜〜スぅ!」


 ボイスチェンジャーにより、性別の区別が付かないガサツいたガチャガチャな機械声でゲーム実況をする配信者──天月 カグレ


 皆に沢山の笑顔を届けるために降臨した堕天使であり、純白な右翼に漆黒な左翼、エメラルドの煌めく瞳、銀髪のショートカットの神秘的な美少女。だが、服装はパジャマのように飾り気のない均一な服。寝癖のようなくるくるのくせっ毛が目立つのも特徴的だ。


 ……そう、キャラの大元の設定は見た目通りの“ほのぼの系”であり、ゆるっとふわっとした可愛らしい配信をすると当初は予定されていた。だが、天月 カグレの“中の人”は初配信で盛大にやらかし、予想の斜め上を行く全くの別設定で強引に我が道ウイニングロードを突き進んでいた。


 ────天月カグレは“煽り系配信者”であった。

 例えば、1 VS 1タイマンの対戦ゲームで対戦相手とマッチングした瞬間から言葉で煽り、高速屈伸や高速反復横跳び、意味の無いアピール連打をスタートさせる。


 そして完膚無きまでに実力で相手を叩きのめし、自分の勝利の余韻に浸りつつ煽って煽ってしめる……それが天月カグレのプレイスタイルであり、配信者としての最大のウリであった。


 そんな天月カグレは新人の配信者として突如配信界隈に登場し、見た目とは見当違いのプレイスタイルとそれを補助するプレイングスキル、更に煽り性能を数段高めるガチャついた機械声……様々な要因が複雑に絡まり合い、最近はグイグイと人気に火が付き始めていた。


 まぁ、火が付くのと同時に炎上は半端では無かったけれども……

 煽る = ゲームとしてはマナー違反な行為であり、他人を傷付け自分が気持ち良くなる最低な行為。それを平常運転でやるカグレが炎上するのは至極当たり前の事なのである。それも大勢の人が視聴する配信者という立場で である。


 その為、天月カグレのコメント欄は常に荒れ、評価も低評価の嵐。周りの配信者にも散々煙たがられ、嫌われている。なにせ天月カグレは性別も、年齢も、経歴も…その全てが無名であり不明。人付き合いも1部のスタッフ以外は皆無らしく同事務所に所属する天月カグレの先輩に当たる配信者も「素性は知らない」と愚痴を漏らしていた。


 オンラインの大会にはたまに顔を出すが、オフラインの大会には一切出ない。身バレを防ぐ為だろう、その為視聴者やアンチ含め様々な憶測が飛び交っている。



 ───ニートのキモデブなのでは? だったり。

 ───ゴリゴリのキン肉マンでは?だったり。

 ───そこら辺にいる女子高生なのでは?だったり。

 全てが憶測の域を出ず……日々視聴者は振り回されていた。



 ……が、当の本人はそんなもの全く気にする素振りが無く、いつも通りの配信をやり通そうとした。



 ──────だが今日に限ってそれは違っていた。


「さぁ〜ッて、最後にワイを気持ちよくさせてくれる相手は誰かなァ〜〜?」


 煽り口調は一切変らず、ヘラヘラとした機械声。


『ふざけんな、マジで見ててつまらん』

『イライラするなぁぁ!!!!!!!!』

『頼むぅ、最後の人 天月カグレを倒してくれぇー(懇願)』


 コメント欄は今日も荒れる。スーパチャットでの投げ銭でカグレを地味に応援する声も多少はあるが、それもすぐに掻き消されるぐらい「カグレ負けろ!」と言うアンチコメントで溢れ返っていた。


 それもそのはず、今日の天月カグレの配信の企画は『連続で3連敗したらボイスチェンジャー切って初声出しやります!』……という正体を隠す天月カグレにとってかなり攻めた企画だったからだ。だがその分“ゲームに勝つ”という確かな自信の証明であった。



 この企画には……様々な配信者が我こそはと名乗りを上げて天月カグレを倒そうと躍起を起こした。


今現在、19人の配信者がカグレに“配信者狩り”として挑み……その全てが敗北を喫している。確かな実力を持つ配信者、先輩風を吹かせた配信者、カグレを倒して有名になりたい配信者……その全員を煽り倒して蹴散らしたのだ。



「……!?」


 ──だが、今日の配信最後の対戦相手の名前を見た瞬間。カグレは言葉を失った。先程までの自信に満ちた声が急に途切れたのだ。


「……えっ、森羅ムニっっ………………………さん!?」


 対戦相手の名前が“森羅ムニ”と表記されていたのだ。


『え、森羅ムニっ!?』

『本物ー?偽物かー?』

『キター、最強の人がキテくれたぁぁぁぁ!!!』

『20人目の配信者は超大物だァァァーーー』


 コメント欄は急激に盛り上がる。

 ──当たり前である、対戦相手の森羅ムニ……とはプロ顔負けのゲームの実力を持ち、カグレにとっては大先輩。そしてVTuberとして最前線で戦ってきた配信者の英雄、それが森羅 ムニ。


 森の聖域内に巣食うイタズラ好きな妖精であり、黄緑色のボブカットに藍色の瞳の可愛らしい女の子。笑顔が抜群に可愛らしく、人々を笑顔に導く先導者とも言われている。


 そんな森羅ムニはVTuberが始まった初期からこの業界に参戦しており、可愛らしい声に面白いトーク。更に天性の才能であるゲームのテクニックにより、人気を博していた。


今では数々のキャラクター商品や、ゲーム、ライブまでも行っているとかなんとか……


 そんな森羅 ムニが天月カグレの配信中を狙ってスナイプして対戦を希望して来たのであった。



 どうやら、天月カグレはこの業界でやり過ぎてしまい……とうとうラスボスが登場してしまうのである。

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