学徒防衛戦④

 時刻は遡って数分前、学校の中庭にてその火蓋は切られていた。


「《設置セット》──────」

 ドレッドはアンダースローで小石を数個投げる。それに対し夏目は斜めに跳ね、建物の壁伝いに飛び回っていた。


「『炸裂する恐怖スケアリーマイン』」


 弾丸のように放たれた石礫いしつぶての半分は、着弾と同時に爆発。もう半分は地面に落ちて数秒間の沈黙後、火花を放ち破裂した。


「ぴょんぴょん避けるなぁ!」

「……面倒な能力だね」


 触れた対象を爆弾化する力。非生物限定という制限はあるものの、その威力は無法。

 ドレッドは一息で距離を詰めた。そして周囲に罠を設置しながら踊るように足技を繰り出し、夏目の身体を軽く吹き飛ばす。対する夏目は防戦一方、生傷が急激に増えていく。


「よし、設置セット完了。お前さん詰んだぜぇ、地雷原の出来上がりだぁ!」


 地面に生える草、撒き散らされた小石、果ては建物の外壁に至るまでが全て罠。

 急所は避けてはいるものの、ドレッドの打撃も油断ならない。蓄積されたダメージで夏目は怯む。と次の瞬間「カチッ」という小さな音が地中なら鳴り、強烈な痛みが足元に走った。


「……ッ!」

 一瞬、痛みで身体が硬直した。ドレッドはその隙を見逃さず蹴り、加速する。


「さあ、踊ろうぜぇ!」

 

 靴底を連続で爆破することにより、推進力を得て空中を飛び交う。瞬間移動とも思える速さで近づき殴る・蹴るの連打。フェイントも織り交ぜながら緩急をつけて攻撃を繰り出す。


「ひゃっはぁ!!!」


 夏目の体が蹴り上げられ、空高く浮かび上がる。カウンターを合わせるべく手を伸ばすが、ドレッドは急停止。タイミングを外しガラ空きになったその襟元を掴み、二階付近の壁に向かって投げた。


 受け身を取る間もなく衝撃が走る。「カチッ」、また音が鳴った。直後、壁の爆発が更なる追い打ちをかける。


「うぐッ!!」

 息つく暇など無い。ドレッドは加速しながら突進し、半身をぶちかます。追撃を許した夏目の身体は勢いそのままに建物内に吹き飛ばされ、教室の窓に頭が突き刺さった。


「ひぃッ! なんだねキミは!?」

「……なんで逃げてないの?」


 窓枠の中には逃げていない生徒と教師。血だらけの夏目の顔を見て、驚きと恐怖の表情を皆浮かべている。混乱にも似た様子で初老の教員は扉を開け、すぐさま廊下の様子を確認した。


「バッ、出ちゃダメ!!」

「んんっ? 誰だオマエ!?」


 瞬間、外から追い打ちを掛けに来た奴が教員の存在に気がつく。そしてドレッドは空中を勢い良く蹴り、夏目─────ではなく教員を狙った。


観客オーディエンスはお呼びじゃねぇッ! 消えな!!」


「くっ、そっ……!」

 教師の頭が壁とドレッドの手に挟まって潰される、1秒前。夏目は体勢を立て直し、教師を押しのけてその攻撃を諸に受ける。


 脳震盪のうしんとう。側頭部に強い衝撃が襲う。刃物で何度も頭の中を突き刺されたような痛みが走る。そしてひたいから吹き出した血液で視界は赤く閉ざされた。


「おいおい、こんなもんかよぉ!?」

「………」

「ムーチョ、はやくお前の本気を見せてくれよぉ。じゃないと死ぬぜぇ!?」

「…………」


 敵と一般人の叫び声が二日酔いのように頭に響く。傷口を手で抑えながら夏目は歯を噛みしめて立ち上がった。

 重度打撲・内部出血・複雑骨折・全身に多数の裂傷。意識を失いかけ、痛みが"気つけ"となって嫌でも目が覚める。その様子を見たマンバンは溜め息を吐き、落胆した。


「ふん、つまんねぇ……終わりにするか」


 この短時間で刻まれたダメージは、実力の差を鮮明にしてくれた。

 間違いなくコイツは強い、想像以上の相手だ。と膝から崩れ落ちた夏目は再度理解する。しかしその上で頷いた。


「そうだね、手の内はだいたい把握出来た。そろそろ終わりにしよっか……をね」


 次の刹那、ドレッドの全身から汗が吹き出す。もう一発当てれば確実に絶命する、今にも倒れそうなボロボロな女に対し本能がそれを察知した。

 距離を取るため、無意識の後退。そしてしくも────その勘は当たっていた。


変身へんしん

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