地球人と惑星人②

 "振動"を付与した黒刀で何度も牢を斬り刻む。しかし切ったそばから植物のように再生し、鋼鉄は隙間を塞いでしまう。

 こっそり脱獄しようと思っていたが難しそうだ。と三人は頭を抱えていた。


「面倒くさいなぁ〜、私の『三原色フェアリーズ』でふっ飛ばそうか?」

「それじゃあ捕まった意味ないでしょ。上手いこと戦闘避けたのにバレちゃいますよ」

「つってもさ、他に方法なんかあらへんで?」


 諦めムードの一行いっこう。そんな薄暗い牢に小さな足音が聞こえてくる。コツ、コツ、と近づく音。囚人達はピタッと会話を止め、耳を澄ました。


 コチラに向かって来ている。先程の半魚人か? いや違う、大柄の惑星人と違って一回り小さい。

 しばらくすると人影は牢の前に立ち、黒いローブを脱ぎ捨てその姿を現した。


「こんばんわ〜」

「しっ、清水!!?」


 ピッ、とカードキーを差し込み、牢扉はガチャンと鈍い音を立てる。鉄格子前の廊下に出ると三人はより目を凝らした。


「ちょ、ちょっとなんすか? 恥ずいっす」


 別任務で遠方に行っているはずの後輩が、自分達の目の前に。これは何かの罠か? それとも幻か?


「自分、ほんまに清水か?」

「他に誰がいるんすか……。頑張って助けに来たんですよ?」

「よくここまで来れたな」

「潜入は得意分野っす」

「羽依ちゃんグッジョブ!」


 解放された職員達は清水に軽く情報共有。その後計画を練り、別れて回収を行うことにした。

 真鍋も含め脱走がバレるのは時間の問題。さっさとこの場から離れ、潜入を開始しよう。と皆が意気込んだ矢先、師人はその足を止めた。


「どうしたんすか?」

「いや、この牢……」


 その視線の先には体育座りでうつむき眠る女がいた。服装はともかく、樹海に迷い込んだ一般人だろうか? 師人の様子に清水もその姿を覗く。


「なんでこんな所に……いるんすか?」

「あの半魚人共に連れ去られたんだろ」

「カリブ星人がそんなことしますかね?」


 カリブ星人は"宝"。太古より資源が少なく他惑星より強奪を繰り返してきたため、遺伝子的に物に対する執着が強い。しかし反面、人身売買などその手の犯罪は極端に少ないとされている。

 

「さあな、それより────」

「あ、そっすね。とりあえず助けないと」


 鍵を開け、その体を揺らす。女は寝起きでほおけるも、すぐさま覚醒し身を立たせた。

 眼鏡に長い髪。全身はメイド服に包まれ、大きな胸が突っ張っている。細い腰からスカートが足首まで伸びている。女はペコリと一礼し師人を見ると、一瞬だけ黙った。


わたくし奥村杏奈おくむらあんなと申します。貴方様のお名前は……?」

「ん、俺? 俺は師人、永岡師人」

「師人様……貴方様が私の………」

「???」


 ぶつぶつと独り言を呟く女。師人は肩をすくめ横に視線を送る。すると清水もうーん、と渋い顔をしていた。


「と、とりあえず、ここから脱出しましょう。えーと奥村さん?」

「"杏奈あんな"とお呼びください。ご主人様」

「えー……」


 もしかして助ける奴を間違えちゃったか? と師人は一抹の不安を抱きつつ、その場を後にした。


 一方その頃、相良は各部屋に通じる天井を這っていた。匍匐前進でゆっくりと進み、給気口から中の様子を伺う。それを繰り返し行っていた。


 盗賊共の本部。根城の本拠地。狭い道を通ったかいもあって下の連中の話を聞けた。確実に超異物アーティファクトは、この施設のどこかにある。

 狭い道を這って耳を澄ませ、盗み聞きする。


「いまいち聞こえんな……能力使つこうたらバレるかもしれへんし……」


 詳細をより知るため、少し先まで進み真上に近づく。するとそこにはがいた。


「あ、こんにちは」

「あ、ども」

「「……………」」


 うつ伏せで向き合う二人は何事も無かったように作業を続ける、訳も無く。


「って、なんでやねん!」

「声デケェよ!」

「うっさいわボケ! 一人だけ逃げたくせに!」

「分かった分かった! オイラが悪かった! だから静かにしてくれ!」

「お前も十分うるさいわ!! 死ね!」


 ガチャガチャと物音を立てる天井。大声を撒き散らす二人の声は、真下の部屋にいたカリブ星人達にもばっちり聞こえていた。


「……どうするギョ?」

「とりあえず……刺してみるギョ」


 せーの、の合図に合わせ数本の槍が天井に突き刺さる。騒がしい声と物音がピタッと消える。

 刺さった傷跡がミシミシッと軋む。その重さに耐えきれず亀裂が走る。

 槍を引き抜いてから数秒後、侵入者はバンッと床に落下した。


「痛ってぇ、これだから公僕は……」

「アホ抜かせ、仕事の邪魔したんは自分やろ」


 数にして七〜八。武装した敵兵に囲まれた。

 真鍋はどこで手に入れたのか拳銃を一丁手に持ち、相良は得物を持たず徒手空拳のみ。


「やるしかないじゃんね?」

「殺らなきゃ死ぬんや、死ぬのは嫌や」

「それなら安心しておくれ、犯罪のプロが貴方のおそばにおりますよ」


 二人は背中を合わせ構える。ジリジリと近寄る足先、固唾を飲む音、敵の視線を肌に感じる。

 せきを切ったように大声を挙げる敵兵、その一人が踏み込んで来る。と同時に銃声を浴びせた。


「………ギョ?」


 貫通した頭から向こう側の景色が見える。青色の血液が滴り落ち、ドミノのように倒れる。

 仲間が地に伏した瞬間、カリブ星人は理解した。これは"狩り"では無く、命を賭けた"戦い"であると。


「生存バトル、開始スタートや!!!」

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