地球人と惑星人③

 銀の床、銀の壁、銀の天井。廊下を進む。通路を折曲おりまがった先に警備兵が立っている。

 他に気配は無い。腰には拳銃、手には長い槍。動きを妨げない装備。大きな欠伸あくび、警戒が緩んでいる。定期的にまばたきを2回、0.3秒、視界を閉じる。背中が温かい。


「エラ呼吸じゃないんだね〜」

「貴様侵入s─────」

 声を出す暇など与えない。絞められた首は閉塞し、鬱血する。巻き付く身体の柔らかさに反し、腕は硬く力強い。


 ブクブクと泡を吐き出しながら、半魚人は眼球の光を失った。カードキーと装備を幾つか手に入れた柊は、少し先の扉の前に立った。


「たぶんココだよね」


 カードを読み込ませ解錠、扉は横に開いた。

 足を踏み入れる前に、中の様子を伺う。六畳程度の真っ白な部屋。敵はいない、罠も……無し。


「さて、どうしたものかな」


 部屋に入ってまず、目に入るのは三つの扉。何の変哲も無く、それぞれ壁の真ん中に扉は設置されている。そして開けた先は海の水面のように光を遮り、奥が見えない構造になっていた。


「ありゃりゃ、しょうがない……。みんな〜、お仕事だよ!」 


 赤・青・緑。色違いの妖精達が現れる。3匹はくるくる回り、左・真ん中・右、それぞれの扉へと進む。部屋と部屋の境界線、そこを超えた瞬間、姿を消す。


「よーし、戻っておいで〜!」


 緑。入って右側に進んだ妖精が戻ってくる。植物の妖精は子供のように笑い、頭を向けてくる。


「よしよし。ヒーちゃーーん! ミーちゃーーん!」


 入って左・真ん中へ進んだ妖精が戻ってこない。何らかの問題トラブルが発生したと考えるべきだろう。柊は能力を一度解除し、再び発動。


「『三原色フェアリーズ』」


 赤・青・緑、妖精は柊の周りを舞う。火の妖精、水の妖精の姿を確認。特に変化は無し。ならば問題無し。


「よしっ、それじゃあ行こか〜!」


 右の部屋を進んだ先には三つの扉。先程と同じ方法で安全な場所を選択。更に進んだ先にも三つの扉。それを繰り返すこと数度、柊はついに目的の場所へと辿り着いた。


「おっ! やった〜っ! 大当たり〜〜♡」


 無数の宇宙道具、丁寧に置かれた超異物アーティファクト。警備兵の情報とこの宇宙船の構造から目星をつけた場所、それがこの保管庫。


『生存バトル、開始スタートや!!!』

「……なんか隣は騒がしいなぁ」


 壁際から聞こえてくる騒音をよそに、物色を続ける柊。見覚えのある刀や興味をそそられる宝石や貴金属も幾つか。


「あったあった、これか」


 そして本命の水晶アーティファクトも入手。適当な袋に押し込んでさて帰ろうか、と来た道を振り返る。とそこには────。


「貴様、そこで何をしている?」


 タコのような顔、大きな体に派手な服。肌は少し湿っており、入れ墨が首元から見える。

 手元には先程の警備兵。その頭に指を突き刺し、鷲掴み、男はっている。兵の身体は干からびてミイラのようにひしゃげていた。


「んー……海賊行為?」


 仲間に対する扱い、そしてこの変異力つよさ。おそらくコイツが船長ボス。柊は植物を地面から瞬時に這わせ、臨戦態勢を整えた。


「多い多い、おーい! これは無理だって!!」

「気張れや真鍋! お前が死ぬとワイも死ぬ!!」


 そして保管庫の隣部屋、相良と真鍋は敵兵の増援により窮地に立たされていた。床に付す半魚人が十数人。しかし周囲には三十を超える敵。


 迫りくる槍と銃弾をいなし、奪い、使う。肉盾したいを駆使し、防ぎ、殺す。薄皮一枚で避け、飛び道具で牽制する。繰り返すこと五度、二人の顔には疲労が表れていた。


「オイラ知らない! お前が煽ったせいなんだからお前がなんとかしろ! ボクお家に帰る!」

「あ、待てコラ! 逃げん────」


 真鍋が出口に向かって脱兎のごとく駆け抜ける。それを追って相良は手を伸ばした。とほぼ同時、メキッ、という音が壁際から聞こえた。


 鋼鉄が膨らみ亀裂が走る。そして次の瞬間、から壁をぶち抜き、女と化け物が飛び込んできた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る