第四話 地球人と惑星人

地球人と惑星人①

 空間を破壊したその先には"近未来"で思い浮かべるような鉄の街。空飛ぶバイク、モニターで作られたビル、派手なホログラ厶。樹海とかけ離れた機械都市がそこには広がっていた。

 そして三叉槍と銃を持つ屈強な半魚人が何十人も矛先をコチラに向け、待ち構えていた。


「う、うーーん?」

「これは死んだな」

「向こう側まで滅茶苦茶になっとんな」


 吹き飛ばした衝撃は内部まで貫通し、削られた地面や建物の破片、待機していた惑星人の亡骸がそこかしこに散らばっていた。


 直撃した者は死に絶え、二次被害で意識不明の重体。別種族でも同じ人型。その表情に溢れる怒気は言わずとも分かった。


「どうします?」


 敵の武装、身に纏う変異力の強さ、その頭数。未知の場所で土地勘も無く戦うのは愚行と言える。

 なので柊は両手を挙げて判断を下した。


「降参しまーーす!!」


 拘束・輸送の後、牢屋に投獄。乱暴に扱われながら詰め込まれた薄暗い小部屋。手錠も部屋も少し冷たい。


「お前達にはしばらくここで生活してもらうギョ。同じ地球人がいるから仲良くするギョ」


 オートロック式の電子キーで管理された鉄格子の奥。そこには一人、先客がいた。


「こいつ変異者じゃねぇか!」


 覚醒した者とそうでない者とでは、纏う力に歴然たる差が生じる。達人クラスの実力者でもない限り、隠し通すことは不可能。


 師人がその男を見て呟くと、柊は「ん……?」と不思議そうに覗き込んだ。すると部屋のすみに腰掛けていた男はバツが悪そうにその顔をそむけた。


「なんか見覚えが……あっ!!」

「どうしたんです?」

「こいつ特殊指名手配の"真鍋まなべ"だよ!」

「ほう、それがホンマならA級レベルの大物やん」


 麻薬や宇宙道具の密売で捕まった変異者。国連特別収容施設から脱獄したA級指名手配犯であり、システム職員の討伐対象に登録されている。


「うるさいな、お前ら特異局の連中か? わざわざこんな所までオイラを追ってきたのかよ?」

「違ぇーよ」

「私たちはタケシを捕まえに来たわけじゃないよ」

「下の名前で呼ぶな」

「なんや海賊の超異物アーティファクトが貴重なもんらしくてな。その回収がワイらの仕事」


 真鍋は安堵の表情を浮かばせつつ、口を開く。自分の目的、侵入が発見され捕まった経緯もおおかた同じだと語った。


 "検索"の超異物アーティファクト。奴らが持っている異物は、失せ物や捜し物を映し出す宇宙道具。この機械都市は宇宙船の内部。侵入者とその出現位置は道具を通じ事前にバレていた。


「同じ目的を持った者同士、ここは一時休戦。手を取り合おうじゃんか」


 師人がどうする? と顔を向けると二人は首を縦に振り肯定した。


「分かった。それで方法は?」

「手錠さえどうにかしてくれれば」

「………カルト」


 呼びかけに応じ赤黒い霧が師人の周りに立ち込め、小さな魔人が現れる。

 

『この手錠は強化されてるから、壊すのに時間がかかっちまう。手っ取り早く鍵を作っちまおう』と鍵穴に霧を流し込み"かた"を探り出すカルト。

 異形の惑星人、とそれを受け入れている地球人達。その姿に真鍋は驚きを隠せず、聞いた。


「……特異局はまで飼ってるのか?」


 作業を続けつつもイラッとしたカルトは、顔だけ真鍋と師人に向ける。


『失礼な奴め、シビトとオレ様は二心同体。ある意味家族みたいなもんだよ。なっ? 相棒!!』

「どっちだよ」


 と数分ふざけた会話を終えると、カチッという音が手錠から聞こえた。四人を拘束していた鉄の輪は半分に割れ、両手から地面に落ちる。


「うぉおおお! やるやん自分!!」

「カルト偉いぞー! 頭撫でさせろ〜〜!!」


 誇らしげなカルトの頭を三人はよーしよしと撫でる。満更でもない小さな魔人とそれを囲う職員。

 その隙を見ると真鍋はオェと口から小さな機械アーティファクトを取り出しカチャカチャと触り始めた。


「真鍋、何してんだ?」

「ん? ワープよワープ。オイラが事前に仕込んだ場所まで移動ワープすんの」

「おッ! それで脱出するんか?」

「ただし────」

「「「ただし……?」」」


 そのスイッチを押しながら、答える。


 満面の笑みを浮かべた真鍋はその瞬間、空間を飛び越え、三人の前から姿を消した。

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