混ぜるな危険③

 木々を進むことしばらく、三人の前には青紫の体毛に覆われた狼が数匹、その行く手阻んでいた。


 質感は非常に柔らかそうな毛並みだが、その毛先は濡れており、歯茎から牙にかけて垂れるよだれは足元の地面を蒸発させ、小さな煙を上げている。


「あれは……外来種だよな?」

「あんな毒持ってそうなやついるかいな」

「誰がやる? 私が一番相性いいかな?」

「いえ、俺がやります。試したい事があるんで」 


 師人は一歩前に出ると、狼達の間合いを測りながら狙いを定める。


「カルト」

〚よっしゃ、ご機嫌なやつ出すぜ〛


 構えるその手に赤黒い拳銃が二丁。飛び道具と認識される前に引き金を引き、銃弾を数発放つ。

 そのうち一発が先頭の頭に命中。抜け殻のようにバタッと倒れ、屍と化す。


 その様子を見て狼達は地面を蹴った。木々を盾に高速で蛇行しながら撹乱。一匹一匹はどうと言うことはない。しかし集団で不規則に動く獣を捉えるのは、中々に骨だ。


 わざわざ危険な場所に飛び込まずともり方はある。師人は狼達を無視し、おもむろに地べたに横たわる肉塊オオカミを持ち上げ、その腹部を

 

「うぇ……何してんねんアイツ」

「師人〜、そんなの食べたらお腹壊しちゃうよ?」


 ゴクッと噛み砕いた肉を飲み込むと、師人は振り返って問題ない、と手を挙げ合図を送った。


 試したい事、それは融合以降に可能となった能力の使用法。取り込んだ生物を創り出し、操る力。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 カルトによって向上した耐性と免疫。宇宙生物に対する拒絶反応をほぼ克服した師人。そんな今の俺ならば、きっと地球外生物の創造も可能なはず。


 と息を整えて瞼を閉じる。ダランと肩を落として両手を握る。身体の奥深くへと意識を向ける。


 獣に背後を見せる。それは本来、自殺にも等しい行為。そしてそれは木々の合間に潜む敵に対しても同様。

 狼達は瞬時に方向を変えて、真っ直ぐにその背中に向かって牙を突き立てた。しかし次の瞬間、


「『原初の種カオスゲノム』」──《紫狼シロウ


 襲いかかる狼の三倍。有に十数匹を超える害獣が師人の周りに現れた。


 身の危険。瞬間的にそれを悟った狼達は踵を返し"逃走"を選択した。が、強化されたコピーはその速度を軽く追い抜き囲い込む。


 鋭い爪に凶悪な牙、そっくりそのまま数的不利。この状況下において畜生に成す術など無い。

 胴を切り裂かれ、首元を食い千切られる。遠く離れた場所からでも、その呻き声はよく聞こえた。


「エゲツな……動物愛護団体が黙ってないでコレ」

「チート系主人公は食傷気味だよ~~」

「黙れ。産み出した魚が地面に転がって、息絶えていく姿を見た俺の気持ち、お前らには分かんねぇだろ!!」


 うぅ〜と手で顔を覆いうずくまる師人。そして血で染まった眷属達が戻って来ると、また号泣しその身体を撫でながら唸っていた。

 二人はまたかと肩をすくめ、動物好きの師人を尻目に探索を再開した。


 それから草木を掻き分け数十分後。

 

「見つけた」

「おっ、響ナイス〜!」

「目には見えへんけどに何かあるで」


 親指で後ろを指差す相良。


 "揺れ"を操る能力。音は空気が震える事で発生する波。視覚的情報が阻害されているのなら、探知器ソナーのように音の反射を探知すればいい。と膨大な迷宮から相良はその場所を探り当てた。


「お前もお前でおかしくない?」

「そうか? しゅば、ぱーっとやれば出来るやろ」


 柊は相良が見つけた異空間に手を当てる。コンコンッと叩くと分厚い鉄のような硬さがすぐに分かった。そして少し悩んで振り返り、二人に顔を向ける。


「鏑木さんも待ってるし、雑に壊しちゃってもいいかな〜?」

 その質問にキョトンとした表情を見せつつ、二人は答える。

「問題ないっす」

「いいともーー!!」


「オッケ〜〜」

 と柊はポンッと手の平サイズの妖精を二体。透明な羽で舞う小さな小人、火を纏う赤色の妖精と氷を纏う青色の妖精を呼び出した。


「ヒーちゃん、ミーちゃん、お仕事だよー!」

 妖精達はその声を聞くとクルクルと回り、火と氷雪ひょうせつに姿を変化させ、浮かび上がる。


 地球上に本来存在してはいけない程の熱と寒冷。相反する二つの力は周囲の空間を歪ませ捻じ曲げていた。


 女はパンッと手を叩く。途方も無い温度差は一瞬にして混ざり合って空気を圧する。そして柊は目の前を指差し、唱えた。

 

「『三原色フェアリーズ』──《レイ》!!」

 

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