混ぜるな危険②

 短いショートの髪には小さな髪飾り。ブラウスシャツにネクタイ、フレアブルゾン。下は大きめのベルトで巻かれたミニスカートを履いている。

 飲み屋大通りのすぐそこ、先に店から出ていた清水は、知らない男に話しかけられていた。


 その雰囲気と風体ふうていからして軟派だろうか? 人懐っこい性格が災いして会話が成立しているが、肝心の所で断っていることが分かった。


 そんな後輩の様子に結構モテるんだなぁ、と師人は感心しながら男の前に割って入った。


「あー、すんません。こいつ俺のツレなんで」


「………チッ」

 軟派を邪魔された男はバツが悪そうに睨みつけ、取り付く暇も無く舌を鳴らすとその場から離れた。遠く離れていくその背中に、哀愁あいしゅうを感じる。


「……変な奴に好かれんだな」

「勘弁してほしいっす。私は先輩一筋なのに」

「一昨日言ってろ」


 本気なのに、とムッとしている後輩を横目に、師人は扉の開く音と出てきた三人に視線を移す。


「いやぁ〜ごっつ美味かったわぁ」

「ごちそうさま〜〜!」

「皆さん、お腹はいっぱいですかぁ?」


 はーい、と揃って返事をする一行。少しの名残り惜しさを感じつつもえんもたけなわ、相良は柊を、師人はイヴと清水の二人を送る形に別れて解散した。 


「響〜! 結婚しよ〜!」

「姐さん服引っ張らんといて、堪忍してぇな」

「なんだよ、もぉ〜! しろよ〜!!」


 そして数分後、酒を買って悪酔いする柊とそれを介抱する相良の姿が既に出来上がっていた。


「つーか、俺が送る必要なくね?」

「か弱い女の子を一人で帰らせるんですかぁ?」

「ほんとに先輩って"鈍感"っすね」

「夜道でお前らを襲う方が不憫だろ」

 

 他三人もトボトボと足並みを合わせ、月明かりと街の光が照らす道を歩く。五人はそれぞれの思いを内に秘めながら帰路に向かって進んでいった。


 そして、明くる日──────。


 山梨県富士河口湖かわぐちこ町。富士山北西部のふもとに広がる青木ヶ原と呼ばれる樹海の入り口に、は来ていた。


「ありゃ? 清水はどうしたんや?」

「お前な、清水はC級。この任務はA級だぞ」

「駄々をねる羽依ちゃん可愛かったね〜。でも、さすがに階級ランク2個上は厳しいかな」

「実際、俺は死にましたからね」


 指定の集結地点まで進む師人・相良・柊の三人。

 昼頃の食事を済まし、気の抜けたそんな一行に先着していた斥候せっこう班の声がかかる。


「お〜い、ここだーー!」

「やっときたかー……」


 サンダルに紺の作務衣、坊主頭の中年がコチラに手を振っている。隣にいる小柄な女はボサボサな髪、派手なウインドブレーカーに身を包み、酒をあおりながら眠そうな目をしていた。


「お〜! 久しぶりだね二人共!」

「おう柊、元気そうだな。おじさんは連続勤務で今にも死にそうだ!」

鏑木かぶらぎのおっさんも大変やなぁ」


 豪快にガハハと笑う鏑木とは対象的にしおらしい態度で師人に近づく女は、両手で胸元にカップ酒を持ち、うるうるとした瞳で上目遣いを向ける。


「ごめん師人ぉ、前に借りてたお金ボートで溶かしちゃったぁ……」

夏目なつめ、開口一番溶かしちゃったぁ、は戦争だろ。てめぇを先に討伐するぞ」

「うへぇ、クズ同士仲良くしようよぉ〜……」


 超異物アーティファクトを所持する宇宙海賊が富士に着陸したと報告を受けた鏑木は、能力によって樹海全体に結界を貼り巡らせている。

 結界の出入り口は現在五人がいるポイントのみ。異空間によって認識阻害カモフラージュしているが、樹海のどこかに奴らは必ずいる。

 

「お前さんらは捜索隊としてターゲットを見つけ出し制圧。ワシと夏目は殿しんがりとして逃げ出した奴を叩く」

「了解」

「おっさんのためにも早いとこ終わらせるわ」

「六時間経っても戻ってこなかったら死んだと思っといて〜〜」

 確認を終えた三人は結界に足を踏み入れ、奥深くへと歩を進める。


 樹木が鬱蒼と生い茂り、深い緑がどこまでも広がる迷宮。木々から差し込む木漏れ日が周囲を照らし異様な雰囲気を作り出している。そして探索を始めて数時間後、樹海から三人の姿は消えた。

 

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