第3話 混ぜるな危険
混ぜるな危険①
時刻は夜を回り、店内は賑やかな声で満ちる。四つ角のテーブルに座るは五人。卓上には味付けの異なるラーメン、チャーハン、餃子が大量に置かれていた。
「俺はまだ切り札を残してっから」
「おぉ……! このキムチチャーハン? 極上ッす!!」
「何言うてんねん。お前なんぞ首チョンパで一発や」
〚地球の飯うめ〜〜!!〛
「この味噌ミルクラーメンもアッサリしてて食べやすいですよぉ」
「美味しそう……一口頂戴〜〜!」
力試しという名の喧嘩は後日改めて、という形で終幕。その後、次任務の引き継ぎを終えた
「柊先輩注文しすぎっす」
「え〜〜? そうかなぁ……?」
「軽く三人前は
「お代は私が出すので大丈夫ですよぉ。その代わり、次の任務はよろしくお願いしますね♡」
上司の視線と釘を刺された男二人は、言い争いをピタッと止め、捨てられた子犬のようにプルプルと震えながら餃子を口に運ぶ。
「アカン、
「相良、何も考えるな……考えたら負けだ……」
ジュワッと広がる旨味と肉汁の舌触り、先程まで堪能していたハズの味がしない。それでも腹を満たすため、二人は食事を続ける。
「あの二人はなんであんな感じなんすか?」
「さあ?
「今回狙う
「物騒な話だなぁ」
ぱらぱらの
「任務って"殺し"も含まれるんすか?」
「惑星人が多いですが
「「ババアじゃん」」
失神しながら器に顔を
「………………」
ふと、平和な光景を前に苦い過去を思い出したイヴは、部下を
◇
男の名は"ミライ サカグチ"。褐色の肌に白い短髪。日系人である彼は、スーツ姿に大きなアタッシュケースを持って歩いていた。
私は現在、極東の島国。日本に来ている。
南米のとある国で生まれ、私は両親の顔も知らない。そして何かを盗むこと、何かを奪うことでしか生活の出来ない環境の中で私は育った。
人は産声を挙げた瞬間にカードを握る。そして、与えられた手札を持って人生という賭場に望む。
私がこうして今も生きているのは、"運が良い"と言う他ない。
「さて、仕事をしよう」
南米本部から日本に転勤になった今、私は商品を数多くの人に届けないといけない。物流の確保、必要な人員の補充、その他諸々、と猫の手も借りたいほどに忙しい。
業務を淡々とこなし、南米からアジアへのパイプラインを作り上げる。
今回の仕事は昔から付き合いのある顧客に商品を渡すこと。既に私はその手筈を整え、
「妙だな、いつもは時間ピッタリなんだが……」
取引先の相手が来ない。闇が支配するような暗闇の時間帯。この場所はコンテナが幾つも積まれ、車が通れる道は限られている。
そろそろヘッドライトやハイビームの光が見えてもおかしくないハズなのだが、何かがおかしい。
「……逃げるか」
「ダメです」
次の瞬間、全身から汗が噴き出した。湿った潮風が首筋に流れる。その判断は決して遅く無かった。しかしそれでも、手遅れだった。
「ッ!? なんっ……だ!!?」
両目が焼けるように熱い。
「私はイヴ・クライストス。貴方に個人的恨みはありませんが……死んでください」
「やめッ!! 私はまだ────ッ」
胸を劈(つんざ)く。息が出来ない。心臓は形すら保てず、血が滲む。
「ぐぁ……ッ!!」
鉄の味が口に広がる。差し迫る命の危機に私は突然、自身の名前を思い出した。
(日本では味覚を司る舌の一部……「
意味の無い走馬灯と共にサカグチは握っていたケースをゆっくりと落とす。箱に敷き詰められた大量の"薬"は衝撃を受け、床に散って寝そべった。
男は力が抜けるように膝から崩れ、仰向けに倒れる。
人生の終わり、夜風に吹かれる少女。最後の博打相手としてあまりに
「
喉に血が溜まり、上手く声が出せていない。そして捻り出したそれは、
しかしそれでも、心優しき少女は男が放った挑発に対し、返事をした。
「
答えに満足したのか男は虚ろに微笑む。沖を進む船の汽笛が響き渡り、潮風の優しい薫りが鼻につく深い夜。少女はゆっくりと瞳を閉じると、神に懺悔を伝え、涙を捧げた。
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