第14話 デビュタント
今年集められた成人の儀をする貴族は16名。
陛下への挨拶を短縮する為、4人ずつ横列に並ばされる。
貴族の位順だからもちろん私は一列目だ。
横目でちらりと見ると、女性は私を含めて2人、残りは男性。
位が高い貴族というのもあってか皆、姿勢がいい。
私も負けずと背を伸ばし、少し俯き加減で前を向く。
前4列は国で三大家紋と呼ばれる名家が並び、もう1人は大公爵、つまり陛下の従兄弟に当たる家紋だ。
バレンタイン大公爵から順に始まる。その次が私だ。
モルディ公爵家、モンタナ侯爵家、クラーク伯爵家、この三家は昔から陛下の側近となる人材を何人も輩出した名家だ。
「陛下にご挨拶を申し上げます。バレンタイン家長男、クラウド・バレンタインです」
クラウド公子が、胸に手を当て挨拶を始める。陛下は肘をついたまま顎に手をやり微笑む。
「早いものだ。クラウドももう成人を迎えるのか」
そう言葉を放つとクラウドも微笑み、お久しぶりですと応えた。
「あとでまた、ゆっくりと話そう」
「ありがとうございます」
クラウドの挨拶を短めに終わらせると、陛下が私の方へ目をやる。
何度も練習したカーテシーを丁寧にすると、ゆっくりと口を開く。
「陛下にご挨拶を申し上げます。モルディ家長女、ルシア・モルディです」
「そなたが・・・イクリスから話は聞いておる。明日から王宮の騎士団に入るそうだな。父に似て剣が立つとか・・・だが、こうして見ると立派な令嬢でもあるな。期待しておるぞ」
「ありがとうございます。私、ルシア・モルディ、父の名を汚す事なく、陛下のお役に立てるよう力を尽くします」
一呼吸置いて、カーテシーを崩し起立すると、後を継ぐように隣の子息が挨拶をする。
ルナディ・モンタナはモンタナ侯爵家の次男で、王宮の庶務室への配属が決まっている。
私とは直接関わる事はないが、三大名家の1人として顔と名前は覚えて置かなくては・・・・そして、最後の令嬢がシルビア・クラーク。クラーク伯爵家の長女でいずれ王子の嫁候補として名が上がってくる。
シルビアは、私ともユリアとも関わってくる人物だ。
なるべく王子を避け、ユリアとの揉め事も上手く取りもたないと後々私に害がくる。シルビアはさほど王子を好いてはいなかったが、家紋を背負っているのもあり、積極的に王子に寄ってくるはずだ。今日もなるべく避けておこう。
列の挨拶が終わると、次の列の為にスムーズに捌け、それぞれの場所へ戻って行く。私はもちろんガウェンの元へと歩いていく。
挨拶が終わり、陛下の祝いの言葉が終わるまで私語は厳禁だから、ガウェンの側まで来ると、上手く挨拶できたという合図の様に微笑む。
それを見たガウェンも無表情のまま、小さく頷いた。
「本日は成人を迎えた若き者達の為に集まった事を感謝する。これにて本日集まった若き者達の成人の仲間入りを認める。各々このパーティーを思う存分楽しんでくれ」
陛下の挨拶が終わると盛大な拍手が送られ、曲が始まる。
「ルシア公女。少しお話ししてもよろしいか?」
名前を呼ばれ振り向くと、クラウド公子が立っていた。ガウェンはすかさず頭を下げ挨拶をし、私も遅れて挨拶をする。
「明日から騎士団に入ると聞いている。実は私も遅れてだが、一週間後に騎士団への入隊が決まっている。なので、挨拶をしておこうと思って声をかけた」
「そうでしたか。クラウド公子の剣の腕前について、とても素晴らしいと伺っております。そんな方と同じ騎士団として関われる事を光栄に思います」
「そんな堅苦しい挨拶はいい。同期になるわけだから互いに気さくな関係になろう。それはそうと、実家から通うとなると朝は大変だな」
「いえ、私は宿舎に入ります」
平然と答える私にクラウドは目を大きく見開く。
女性騎士がいない訳ではないが、貴族の令嬢が騎士団に入る事は珍しく、それでこそ宿舎に入るなんて話は聞かないから、驚くのも無理はない。
「それは・・・モルディ公爵の意思なのか?」
「いいえ、私が望んで父にお願いいたしました」
「なんと・・・」
言葉を詰まらせるクラウドを見ながら、チラリとダンスをしている中央へ目を向ける。デビュタントでは必ず一曲は踊らないといけないから、さっさと終わらせたいのだが、まだ話は続くのだろうか?
少し困った表情で公子と中央を交互に見ていると、ガウェンが助け舟を出す。
「お嬢様、お話の途中ではありますが先にダンスを済ませますか?」
「そうね・・・クラウド様、よろしいでしょうか?」
「あっ・・あぁ。だが、曲の途中で入っては邪魔になる可能性があるので、この曲が終わるまで待つことを薦めるぞ」
公子の言葉にそれも一理あるなと思い直し、ガウェンに少し待ちましょうと囁く。
「クラウド!それに・・・ガウェン殿も来ていたのか」
その声が聞こえたと同時に胸が大きな音を立てて忙しくなり始める。
何これ・・・えっ?不整脈とか!?なんでこんなに動悸が激しいの?
思わず胸に手を当て、ぎゅっとドレスの襟元を握る。
「アレク!来てたのですね」
公子が呼ぶ名を聞き、更に胸が苦しくなるほど打ち鳴らす。
アレク・・・アレクサンド・グラディオなの!?
振り向くと、背の高い煌びやかな衣装を纏った男性が笑顔で歩みくる。
金色に輝く髪、少し日に焼けた肌、整った顔に、ブルーの瞳・・・間違いない、アレクサンド王子だ!
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