第12話 弱くて強い・・・sideガウェン
初めて会ったのは入団した16の時。
彼女はまだ小さく12という歳で、大勢の男に囲まれ剣を振っていた。
その表情は鋭くギラギラした眼をしていた。
普通の女性とは全く異なる異質な雰囲気だった。
俺はマックール伯爵家の三男だった。
決して兄達を超える事なく、伯爵家の名を汚さず、多くを望むなと言うのが父の教えだった。
それはどんなに努力しても後継者になる事はなく、伯爵家の為に品位を落とさず、ただ影として役に立てと言われている様なものだった。
毎日が無だった。勉強も剣術もほどほどに力を入れ、家業は補佐程度にしか拘らず、父が進める令嬢と会う。
希望も見出せず、ただただ言われるがままに過ごした。
14の時、戦に勝利した騎士団の帰還パレードがあり、そこでモルディ騎士団と出会った。その時の衝撃は今でもはっきりと覚えている。
少し血の付いた鎧を身に纏い、馬の上で勇ましく前を真っ直ぐに捉え進む団員達。
そして、その先頭にいるイクリス・モルディ公爵の姿が目を捉えて離さなかった。
何もかもが俺を魅了して、恐怖にも似た感情と歓喜の感情が入り混じり、ゾクゾクと背筋を走った。
それから俺は変わった。主に剣術に力を入れ、家を出る事で後継者の座を望まないと言う意思表示と、団員で必ず功績を上げ、伯爵家の名を上げるという約束を父と交わし入団した。
入団してからは毎日が目まぐるしく、鍛錬は決して楽ではなかったが心が満ちる気がした。
騎士の世界は完全に実力優先だ。特にこのモルディ騎士団は年齢関係なく実力次第で上に登れる。それが楽しかった。
遠征や偵察には何度も行く事ができ、戦にも1度行った。
その中で自分の実力が上がると共に、地位も上がっていった。
だが、その頃から彼女の存在が気になり始めた。
俺が遠征や地位を上げる度に、睨んでくるようになった。
敵意に似た感情を向けてくるようになったのだ。
彼女からしたら当たり前なのかも知れない。団員の中では年も近く、後から入団した俺がどんどん差を広げていったのだ。
女性騎士がいない訳でもない。幼い頃から剣を握っているせいか実力もある。
それでも彼女が遠征に行けないのは、まだ若いからだと思っていたが、そうではなかった。
彼女はモルディ家を継ぐ者として、剣術を習い、今後女性として社交場で活躍する為にも別の授業を受けていた。つまり家を離れる事は許されなかったのだ。
それでも、双子が生まれた事で彼女にもチャンスができたのではと思っていたが、現状は全く違う。後継者教育は変わらず、両親の関心だけを失った。
19になってすぐに副団長の座を得たその日、訓練所から少し離れた場所で1人隠れ泣いている彼女を見かけた。
小さくうずくまり、声を漏らすまいと口に手を当て泣いてた。
俺は声をかける事が出来ないでいた。
彼女は恐らく当主にはなれない。双子が産まれ、その片方に男の子がいる事でその願いは絶たれた。
だが、幼い頃から繋がれた錘から逃れる事はない。きっと自ら外す事もできないだろう。それが不憫に思え、痛ましくも思えた。
彼女が訓練中に怪我をして寝込み、復帰した際に感じた違和感。
ダイニングで話した今までの彼女からは口にされない言葉達が、自分の中で異様な焦燥感を生み出し、部屋に訪れずにはいられなかった。
部屋に閉じこもって塞ぎ込んでいると聞いたあの日、躊躇うことなく会いに行った。
そこで聞かされた話・・・とても信じられない内容だったが、目の前で嗚咽を漏らし咽び泣く彼女の姿は、虚言でもなく切実な真実だと物語っていた。
今まで彼女を見てきた俺だからわかる真実・・・。
ただ生きたいと願う強い想い。それも中にいるルシアと共に・・・
表の彼女が本当にルシアを救ってくれるのかもしれない。いつか見たあの小さな姿で泣いていた彼女を・・・。
そう思うと自然に体は動き、彼女に宣誓した。
不思議と何の迷いもない。
持てる全てを教え、彼女達が笑いながら生きるために力になろう・・・ただ、そんな思いだけが胸の中に湧き出ていた。
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