第10話 不安

帰宅して早々両親に呼ばれ、説教をされる。

護衛騎士として報告は義務だから、こうなる事はわかっていたが気が滅入っている私にとって、両親の言葉はかなり心に刺さった。

母親からは危険に晒したと怒られ、父親からはその場も収めきれない情けない奴だと罵られ、その場にいたガウェンが立派に弟達を守っていたと擁護するも聞き入れず、部屋で一週間の謹慎処分を言い渡された。

気が滅入っていた私は、心の中で訓練もダンスのレッスンもしなくていいならラッキーだと笑ってみたが、思いの他、自分がかなり落ち込んでいる事がわかり1人部屋で何もする気が起きず、ただぼんやりと過ごした。

ニーナも食事以外の立ち入りを禁止されていたから、本当に1人きりだった。

食事する気も起きず、ニーナが心配しているのも気に留めず、ただただベットの上から降りずに座って過ごした。


そんな日が三日も経った頃、ふっと自分の顔が見たくなり鏡台の前に座る。

自分の顔というより、無性にルシアに会いたかった。

鏡に映るルシアの顔を見つめ、語りかける。

「ねぇ、ルシア。私、どうしたらいいのか、わからなくなった。ルシアは自分より大きな男達と訓練して、今まで怖い経験もしてきたのよね。どうしたら、強くなれるの?」

返ってくるはずのない返事にため息が溢れる。

「今回の事で気付いたの。騎士団に入るという事は、これからこんな事がいくらでも起きる。それに、確か遠征にも行くのよね?その時、戦とかあったのかな?」

不安からか声がか細くなる。


「お嬢様・・・少し、よろしいでしょうか?」

ノック音の後にガウェンの声がして、慌ててドアへ駆け寄る。

そっとドアを開けると、そこには相変わらず無表情のガウェンが立ってた。

私はドアの外をキョロキョロと見回し、小声でガウェンに声をかける。

「ガウェン様、何かご用ですか?ここに来た事がバレたら、ガウェン様も罰を受ける事になります」

「構いません。それより、お嬢様の使用人が食事も取らず、籠っていると心配されていました。少し、中でお話してもよろしいですか?」

ガウェンの話に、ニーナがわざわざガウェンに相談に行ったのかと頭を抱える。

「早く入ってください。誰かに見つかります」

「では、失礼致します」

軽くお辞儀するガウェンに、早く!と促し部屋に招き入れる。


「ニーナといい、ガウェン様といい、心配してくださるのは有り難いんですが、無茶な事はしないでください。罰を受けるのは私だけでいいのです」

「お言葉ですがお嬢様、あの場には私もいました。私が不甲斐ないせいで、お嬢様だけに罰を受けさせるのが忍びないのです。今回の事は、公爵様が間違っていると思います」

「何を言ってるの!?そんな事、誰かに聞かれたら追い出されますわよ!」

「構いません。言ったはずです。私はお嬢様にも忠誠を誓っていると・・・」

ガウェンの言葉にため息を吐くと、座るように促し、私も腰を下ろす。

「まったく、真面目過ぎるのはダメよ。私は私のせいで誰かが犠牲になる事は望んでないですわ」

「ですが、何もかもを背負おうとするのは辞めて頂きたい。私は敵ではないと言ったはずです。話せる範囲で構わないので、話してくれませんか?」

まっすぐ見つめるガウェンを見ながら、全て打ち明けてしまおうかと思ってしまう。きっとこの男は、私が以前のルシアじゃない事に気付いている。

でも、信じてくれるだろうか。聞いても尚、私の味方でいてくれるのだろうか。

不安ばかりが胸を締め付ける。

黙り込んだまま俯いている私に、ガウェンが話かけてくる。

「話せる範囲でいいんです。私を信じて頂けませんか?力になりたいのです」

ガウェンの声から私を心配している気持ちが伝わってくる。

その瞬間、鼓動がトクンっと小さく跳ねた。

まるで心の中のルシアが、大丈夫だと言ってくれてるようだった。

「・・・・ガウェン様、私を信じてくれますか?」

「はい」

即答するガウェンに、安堵のため息を吐いてから口を開く。

「全部はお話しできませんが、少しだけ聞いてもらえませんか?」

「わかりました」

私は顔を上げ、ガウェンを見つめると大きく深呼吸をした。

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