第9話 休日

「お姉様、手を繋ぎましょう」

街に着き、馬車を降りるなりユリアが手を繋いでくる。

すると、ユリウスも照れながら手を伸ばしてきた。

そんな2人に微笑みながら、手を取りしっかりと握る。

護衛にはガウェンと若い騎士がもう1人付いてきていた。

私もいるのにと思いながらも、小さな子供は目が離せないから、これで良かったのかもと納得し、歩き始める。

しばらく歩くと雑貨屋が目に止まり、2人に入ろうと声をかける。

「よく考えたら忙しくて貴方達に贈り物もした事がないわね。何か欲しいものある?お姉様がプレゼントするわ」

そう言うと、2人は満面の笑みを浮かべ、雑貨屋の中へと入っていく。

その後ろを付いて行きながら、私も辺りを見回す。

自分の世界に似た物もあるが、どれもアンティークっぽい作りで見た事ない物ばかりだった。物珍しくて私も双子同様、目をキラキラさせて見回る。

「これは何かしら?」

ストラップの様な紐に、金庫美の淵の中に深海の様な深い青色の石が付いてる飾りを見つけて、店主に尋ねる。

「これは『ドラゴンアイ』と呼ばれる鉱石で、勝利を招くと言われ、主に騎士達へ贈るお守りとして使われる品物です」

店主の説明を聞きながら、その青色の深さに魅了されていく。

「これほどまで深い色はなかなか出回らないんですよ。模様も変わっているでしょう?」

そう言われ、じっくりと見入ると黒い模様が見え始め、その模様がくっきりと見えた途端、ドクンっと鼓動が大きく跳ねた。

何だろう・・・この模様、見たことがある・・・。

そう思うが、どこで見たのか思い出せず、食い入るように見つめる。

するとガウェンの手が伸び、私を制御する。

「ガウェン様?」

「お嬢様、このドラゴンアイはお守りとして使われますが、稀に持つ者を魅了し、秘められた力の虜にすると言われています。なので、あまり近づかない方がよろしいかと・・・」

ガウェンの言葉にまたドクンっと鼓動が跳ね、青ざめる。

そうだ・・・これだわ。ルシアはこれを持っていた。

そして憎悪に引き込まれた時、この力を使って本来使ってはいけない術式を完成させるんだった。

こんな危ない物を平然と並べて置くなんて・・・これは、絶対手にしてはいけないものだ・・・慌てて鉱石から目を離し、ガウェンにありがとうと告げると、双子達が駆け寄ってくる。

「お姉様、決めました」

駆け寄ってきたユリアの手にはクマのぬいぐるみ、ユリウスの手には木彫りの騎士の人形があった。

「ユリアのぬいぐるみは可愛いし、ユリウスの人形はカッコよくて素敵ね」

2人の選んだ物を褒めながら、ふと横の棚を見ると綺麗な色の刺繍糸が並べられていた。

「ねぇ、ユリアとユリウス。お姉様、2人に手作りの物をプレゼントしたいの。この中から好きな色の糸を選んでくれるかしら?」

「わぁ!本当ですか!?ユリア、この可愛いピンクがいいです!」

「ぼ、僕は青色がいいです」

迷う事なく選んで差し出す糸を受け取り、それに合う色をもう2本、それとは別にキャラメル色とグレーの紐を選んで購入した。

店を出ると、甘い物を食べに行こうと決め歩き出す。

すると、後ろから走ってくる人の気配を感じ、慌てて双子を抱きしめる。

走ってきた男は勢いよく私にぶつかり、転げると罵声を上げ始めた。

男からは昼間なのに酒の匂いが漂ってくる。

その様子を見て、荷物を馬車に詰めていたガウェン達が駆け寄ってきて男を制御する。

もう1人の騎士に、怖がっている双子達を馬車に乗せるように伝えると、ガウェンに声をかける。

「今日はもう帰りましょう。双子達が怖がっているわ。その男は相手にしなくていいわ」

「しかし・・・」

「ガウェン様、貴方方は双子達の警護で来たのです。双子達の身の安全が優先よ」

「・・・・わかりました」

ガウェンは乱暴に男を突き放すと、馬車へと向かう。

私もその後をついて行くが、男に肩を掴まれ引っ張られる。

「おい、待てよ。どこの貴族様か知らないが、ぶつかって謝りもしないのか?」

「離してくださる?そもそもぶつかってきたのは、貴方ですよね?」

「何だと?この生意気な小娘め」

男が手を振り翳し、殴りつけようとした瞬間、横から伸びてきた拳が男に当たり、男は後ろにひっくり返る。

「貴様、誰に手を出そうとしているのか、わかっているのか!?」

声を荒げるガウェンに手を翳し、大事にしたらまずいと宥める。

ガウェンはため息を吐き、私の後ろを守るように先を歩かせた。

いくら訓練をしているルシアの体とは言え、初めて大人の男性に大声で罵られ、手を振りかざされ、平然とした態度をとっていたが気付くと手が震えていた。

それに気付いてか、ガウェンが声をかけるが私は苦笑いをして答えた。

「こんなんじゃ、立派な騎士にもなれないわね」

そう呟いた私にガウェンが、眉を顰めた。

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