第3話 生きたい
「詰んだ・・・」
ボサボサの頭を掻きむしりながら、目覚めても尚、変わらない風景に絶望する。
あれから三日も寝込んだが、目が覚める度に絶望が止まらなかった。
目を閉じる度に、次に目覚めた時は・・・と期待していたが、熱がすっかり下がったのかスッキリとする状態の中で目覚めた時の絶望は壮絶だ。
ニーナはまだ来ていない。
ゆっくりと体を起こし、カーテンを開けるとその景色にまた絶望する。
「ですよね・・・・私がこの状態だと、外もこうですよね・・・」
悲しみの混ざった声で呟く。目の前には広い洋風庭園が広がっていた。
泣きたい気持ちを押し込み、またベットに戻ると頭を抱え、記憶を辿る。
私は
三歳の時に脳に腫瘍が見つかり、何度も入退院を繰り返した。
それでも何とか持ちこたえ、14歳の時には完治した・・・はずだった。
16歳になったばかりの時、癌が再発してそれからは早かった。
手術もしたが、すでにあちこちに転移し、末期となった。
最後の時は静かに本を読んで過ごした。
元々本は好きだったが、人生の大半は病室で過ごしていたからか、ファンタジーや恋愛物ををよく読んでいて、その中でも「巡る運命の行方」は何度も何度も読み返した大好きな本だった。
ヒロインが姉にいじめられながらも強く生き、王子と恋に落ち、いくつもの壁を乗り越えながら、悪になった姉と対立するありきたりな物語だったが、私は悪役である姉、ルシアが好きだった。
好きだったルシアだが、物語のルシアの未来は死・・・・その事実が私に絶望を与えていた。
また、死ぬのか・・・・そんな思いがあったからだ。
ベットに体を投げ出し、柔らかいシーツに頬擦りする。
退院してもポンコツな私の体はよく熱を出した。そのせいか、自力で体を起こせない私の自宅のベットも病院のベットと同じだった。
ずっと硬いベットの上で生きてきた。
世の中にはこんなにも心地良いベットがある。きっとルシアの体なら自由に駆け回る事もできる。
頑張れば友達もできるかも知れない。
そんな希望を抱いても、先に待つ未来に絶望を感じる。
確か、ルシアは21歳で死ぬ・・・今、この体は幾つなんだろうか・・・
騎士の名家に生まれたルシアは、なかなか次が生まれなかったために、幼少から騎士としての訓練を受け、更に淑女としての教育も受けていた。
下の兄弟が生まれたのはルシアが5歳の時。男女の双子だった。
年が離れた弟と妹は大層可愛がられた。
怪我をすれば情けないと怒る父、女性なのに怪我をするなと嘆く母、ルシアには向けられる事のない笑顔を向けられ双子は育った。
体の弱い弟は騎士の訓練は受けず、当主としての勉学だけをひたすら学んだ。
愛嬌のある妹は淑女の教育をだけを受け、友達とお茶会などを楽しんだ。
そんな2人に嫉妬を覚えないはずはなかった。
ルシアは2人を冷たくあしらっていたが、決して手を挙げたりはしなかった。
だが、それも変わる出来事が起きる。
16歳になったルシアは社交界デビュー後、父に勧められ騎士団に入隊する。
そこで出会った王子に恋をするのだ。
だが、非情にも王子が恋に落ちたのは妹だった。
初の遠征に行っている間に2人は出会い、次第に惹かれ合い、恋に落ちる。
それがルシアを嫉妬に狂わせた。
そして弟が正式に当主後継者となり、ルシアは壊れた。
禁断の術に手を染め悪となり、最後は王子に殺される・・・
ルシアの描写は少なかったからか、最初に読んだ時は姉のイジメと、周りからの嫉妬や嫌がらせ、隣国との揉め事に巻き込まれるなどの苦難に立ち向かうヒロインに肩入れし、王子との恋を微笑ましく思っていたが、何度も読み返す内にルシアに想いを馳せるようになった。
ただ家紋の為に、家族の為に努力してきたルシア。
初めての恋も叶わず、望みをかけていた当主の座もあっさり奪われた。
誰も彼女の悲しみを理解せず、救ってやらなかった。それが悲しかった。
「よし、決めた!どういう理由でこの体に入ったのかわからないけど、私はルシアと共に生きる!私がルシアを幸せにする!先を知ってるからこそ、うまくやれるはず。今度こそ、長く生きて人生を終えてやる!」
側にあった枕を強く抱きしめ、そう決意する。
物語も運命に何度も立ち向かいハッピーエンドになるんだ。
私も立ち向かって生きてみせる!
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