第2話 目覚めた世界
柔らかい布が肌に当たる。
ベットがフカフカで気持ちいい。今まではずっと硬いベットの上だったから、体が痛かった。
ベットがこんなに心地いい物だとは・・・・本当に私、人生の半分以上は損してるわね・・・。
まどろんだ意識の中、目を開ければ明るい日差しが目に入る。
「おはようございます。お嬢様」
そう呼ばれて声の方に顔を向ければ、メイド服を着た女性がベットの側で頭を垂れていた。
「・・・・だれ?」
不意に出た言葉に、メイドは勢いよく顔を上げ、不思議そうに見つめ返してくる。
見つめ合っていた視線を逸らせば、見覚えのない景色に目を大きく開く。
「え?ここはどこ?天国・・・じゃないよね?」
キョロキョロと辺りを見回し、体を起こすと腕に痛みが走る。
「痛たっ・・・え?痛い?」
体の痛みが現実だと言っているようで、血の気が引く。そして、肩から溢れ落ちたシルバーの長い髪が目に入り、一気に鼓動が早打ちし始める。
側に居たメイドが慌てて体を支えると、不安そうな表情で口を開く。
「ルシアお嬢様、まだ、無理をしてはいけません」
ルシア・・・・今、ルシアって言った!?
「昨日、剣術の稽古で怪我した傷が、まだ熱を持っているんです」
そう言って、私の手をそっと取ると優しく撫でた。
「すみません・・・今、私の事をルシアと呼びましたか?」
恐る恐る問いかけると、メイドはまた眉を顰め、心配そうに答えた。
「はい。ルシアお嬢様とお呼びしました」
「え?ルシアって、ルシア・モルディの事?」
「はい。お嬢様の名前です」
そう答えながら、メイドは失礼しますと呟き、額に手を置く。
「やはり・・・お嬢様、すぐに医者をお呼びしますので、もう少しお休みになって下さい。どうやら、傷のせいで熱が出ているようです」
メイドは私の体を支えながら、横たわらせ、毛布を被せる。
「あっ、あの・・・あなたの名前は・・・?」
「お嬢様・・・大丈夫ですか?私はお嬢様のメイドのニーナです」
メイドはそう言いながら、心配と哀れむような表情で見つめてくる。
きっと私の顔は青ざめて酷い顔なのかも知れない。
「ニ、ニーナさん・・・」
「お嬢様・・・メイドをさん付けで呼んではいけません」
「え?あ・・・じゃあ、ニーナ、鏡みたいな物はありますか?」
「お持ちしますね」
ニーナはまだ不思議そうな顔をしながら、くるりと背を向けるとどこかからか手鏡を持ってくる。
持ってきた鏡に手を伸ばし、ゆっくりと覗き込むと、見慣れたはずの顔はなく、肉の付いた頬に綺麗な二重瞼、すっと伸びた鼻筋に、目の色はエメラルドグリーン・・・・これは、あのルシアだ・・・
鏡に映る顔に覚えがあった。
病室のベットの上で愛読していた小説・・・「巡る運命の行方」の中にあった挿絵で描かれていた悪女のルシア・モルディだ。
愕然と鏡を見つめる私にニナが声をかける。
「お嬢様、とにかく今はゆっくりお休みください。すぐに医者を呼びます」
鏡を取り上げながら、捲れている所はないかと確認するように毛布を肩まできっちりと上げる。
頭がすでにパンク状態だった私は、促されるまま目を閉じると、不思議とそのまま眠りに陥っていった。
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