悪役令嬢は運命に囚われる

颯風 こゆき

第1話 プロローグ

広大な草原の中にある小丘に佇む。

騒がしい周りと裏腹に、優しい風が体を包む。

空は晴天で、雲一つない。

汚れたドレスをひと撫ですると、頬から伝う涙を拭う。

ボロボロになり素足が見えるドレスの間から、足に備えてあった短剣を取り出す。

サラサラと風に靡く髪を耳にかけ振り向くと、数人の視線が集まっていた。

その数名から聞こえる声に応える様に微笑む。

「これでいいの・・・」

ポツリと呟いた声は風にかき消され、届かない。

手に持っていた短剣の刃を首に当てる。

ひんやりとした感触に体が震える。

それを唇を噛み締め必死に止めると、鞘を持つ手に力を込めた。

駆け寄ってくる人影に満面の笑みを浮かべ、そっと目を閉じた。

これでいい・・・

自分に言い聞かせるように心で唱え、首に当てた剣を引く。

不思議と痛みはない。

倒れる体はゆっくりと天を仰ぐ。

これでいい・・・

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