第7話 ハエ

 このところ、部屋にハエが入ってきて困っている。何かの拍子にふと壁や冷蔵庫の横などに目をやると、ポツンとハエが止まっていることが頻繁にある。部屋にハエが入り込めるような隙間はなく、どこから入ってきているのかわからない。

 ぶんぶんと飛び回られるとうっとおしいことこの上なく、食品の上を歩かれると不潔なので、見つけ次第殺虫剤で殺しているが、気が付けばどこかにとまっている。

 部屋に入ってくるハエはイエバエと呼ばれる類のハエで、調べたところでは動物のフンや生ごみに卵を産んで繁殖するタイプらしい。もしかすると部屋の中でウジが湧いているのかと思って、ゴミをチェックしてゴミ箱もきれいにし、排水口も水回りもチェックして掃除したが、一向にハエがいなくなる気配がない。増えることこそないものの、殺しても殺しても出てくる。

 となれば、あとは私が戸や窓を開けたときに入ってくる以外にはない。例えば家を出たり入ったりするときや、洗濯物や布団を干したり取り込んだりするときに、ひっそりと忍び込んでくるのだろう。つまり外にハエが発生しているような場所があるに違いない。

 ただ、外を見て周ってもゴミが捨てられているようなこともない。ゴミ捨て場も問題がなさそうだ。買い物に出ようとしていたお隣さんと会ったので聞いてみたが、そちらはハエの被害に困っているということはないらしい。

 やはり自分の部屋の問題なのかもしれないが、原因がわからない。飛び回られるだけでもうっとおしいのに、寝ている間に顔にとまられて飛び起きたこともあった。最悪なのは、開けっ放しになっていた口の中に飛び込まれた時だ。嫌な感触がして飛び起きてみると、口の中で小さい物が暴れまわっている。ティッシュに吐き出して、黒いハエが唾液にまみれてもがいているのを見てしまうと、うがいを10回しても3日はへこむことになる。

 さて何とかしないとと思ながらも、いい案が思いつかないまま過ごしていたある日の夜。これから寝ようと歯を磨いていた時に、口の中に異物感を覚えた。

 まさかと思って吐き出すと、歯磨き粉の泡にまみれたハエが洗面所の中でもがいていた。

 鏡に顔を近づけ、口を大きく開けて中を写してみる。一瞬だけ喉に何かが当たるのを感じた直後、生きたハエが喉の奥から姿を現して、洗面所の照明めがけて飛んでいった。

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