第18話 名前
季節は、秋となり、街の木々も紅葉化が進んでいた。
「文化祭の出し物の演劇は、不思議の国のアリスになりましたー」
2年3組の話し合いにより、文化祭当日、演劇をすることとなった。
演目は、不思議の国のアリスに決定した。
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「不思議の国のアリスってどんな話だっけ」
「チェシャ猫が可愛い奴ですよ」
「モブとは言わんけど、もっと主要キャラを言うだろ」
部活を終わり、神門と霧崎は、帰路についていた。
「なんかケーキ食べたら、大きくなったり小さくなったりするやつですよ」
「へー」
「ちゃんと聞いてますか?」
「聞いているよ」
神門は、霧崎の説明を聞きながら、歩みを進める。
「それで配役とかは決まってるんですか?」
「まだだけど」
「先輩のことだから、やりたがらないと思いますけど。でも、それこそチェシャ猫とか似合いそうです」
「それはまたどうして」
「んー、掴みどころがないって感じが似てるとかですかね」
「それを言ったら帽子屋じゃないのか?」
「まあそうですけど。先輩ってそういう狂気的なところってないですから。むしろ、猫みたいにのんびりとした感じが似合いますよ」
「そうなんだ」
「はい」
2人は、コンビニに立ち寄り、それぞれアイスを選ぶ。
「決まったか?」
「はい」
「じゃあ、払ってくるわ」
「あっ」
神門は、霧崎が持っていたアイスを取り、そのままレジで精算をする。
「先輩って、そういうところずるいです」
「は?」
店の外に出ると、近くの公園に向かう。
「というか、お前のクラスは文化祭何やるの?」
「僕ですか?こっちは、クレープ作るみたいです」
「へー」
「先輩も来てくださいよ。先輩ってこういうスイーツ好きですよね?」
「まあ、嫌いではないけど」
「あー、でも先輩って偏食とは違いますけど、決まったお店で決まったものを注文しますよね?」
「失敗しないからな」
「保守的ですね、もっと冒険しましょうよ」
「期間限定とかか?」
「はい」
「考えとく」
「それって考えるだけですよね」
公園に辿り着き、ベンチに腰掛けてアイスを食べ始める。
「なぁ」
「ふぁい」
「お前ってどういう時に俺の名前を呼ぶの?。たまに呼んでたりするけど」
「そうですねぇ。大会とかで応援する時は、名前で呼んでますね。あとは、家で寂しさを紛らわす時に呼んでます」
「いや、後者の方は知らんけど。じゃあ応援の時に呼んでる感じか」
「はい。先輩は?」
「ん?」
「いや、先輩ってお前とかで呼ぶじゃないですか」
「まあ、そうだな」
「時々、呼んではくれますけど、あんまり聞かないなって思って」
「そういうことか。いや、2人でいる時って基本、お前にしか話しかけてないわけじゃん。だから、自然にそうなってるだけだぞ」
「ってことは、人が多い時は名前で呼んでくれるって事ですか?」
「まあ、そこに知り合いが何人か居たら、名前で呼ぶだろうな」
「なるほど」
アイスを食べながら、お互い、何と呼ばれているか思い出しながら話す。
「せんぱーい」
「んー」
「僕たちって付き合ってどのくらいですっけ?」
「2ヶ月と何日かじゃね。もうじき3ヶ月くらい」
「ですよね」
「それが?」
「僕たち付き合い始めて、1か月記念って何しました?」
「キーホルダーをお互い渡しあったな」
「2ヶ月目は?」
「ドリンクボトル」
「そろそろ、入籍しません?」
「法律を勉強してこい」
「海外に移住しましょう」
「俺は、この国から出ないぞ」
神門は、突然の求婚に対しても、顔色一つ帰ることなく、受け流す。
「先輩と同棲とかしてみたいです」
「そう」
「料理は得意ですよ」
「俺もレシピ見ながらなら、ある程度の味まで作れるぞ」
「なんか、先輩ってそういうの器用そうですよね」
「さあな」
「あと、前から気になってたんですけど」
「あ?」
「先輩ってなんか細かい所作とか綺麗ですよね」
「そうか?」
「はい、ご飯食べる時とか、箸の持ち方とかご飯の食べ方とか綺麗ですよ」
「それなら、母さんのおかげかもな」
「そうなんですか?」
「基本的に食べ物とか飲み物は、母さんの真似をして食べたり飲んだりしてたし。箸の持ち方とかご飯の食べ方も母さんの真似をしてたから」
彼の母親は、そういうのを教えていたつもりはなかったのだが、彼が真似をするのを知っていてあえて細かい事は言ってこなかった。
「先輩って良いお父さんになりそうですね」
「そうかい」
「そうですよ」
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