第15話 バッシュ

「せんぱーい」

「何だ?」

「オフの日ってここ以外に行くところ無いんですか?」

「別に良いだろ」

「まぁ、私も気に入ってますし、ここに通えば先輩に会えるんで、良いんですけど」

「じゃあ良いじゃん」

「むぅ…」


神門と霧崎の2人は、いつもの喫茶店に来ていた。

夏休み期間ではあるものの、完全なオフの日なので、のんびりと過ごしていた。


「というか、お前の方は友だちと遊びに行かなくて良いのか?」

「友だちとは、いつでも遊べますし。遊ぶような人ってバスケ部くらいですから」

「そうなんだ」

「むしろ、こうして外で先輩と会える事の方がレアなので」

「オフの日は、毎回ここに来るけどな」

「それでもですよ」


2人は、注文したものを口にする。

神門は、チョコレートパフェとアイスのカフェラテ。

霧崎は、チーズケーキとアイスのアールグレイティーを注文していた。


「先輩ってもしかして、甘党なんですか?」

「んー。ここって、程よい甘さじゃん」

「確かに」

「だから、別に甘党ってわけじゃなくて、ここの商品が良いんだよ」

「なるほど」


それぞれ飲み物を一口飲むと、女性店員が話しかけてくる。


「すみませーん、お二方に、ちょっとお願いがあるんですけど良いですか?」

「何でしょうか?」

「実は、新商品を考えていて、試しにドーナツとか作ってみたんですけど、常連さんでもあるお二方に、味見をお願いしたいんですけど」

「良いっすよ。悠那も良いだろ?」

「良いですよー」

「ありがとうございます」


女性の店員は、ドーナツを乗せた皿を2人の前に置く。


「ぜひ、ご感想をお聞かせください」


2人は、ドーナツを一口齧る。


「美味しいっす。甘さも丁度良く、コーヒーとかによく合いそうです」

「そう?良かった。彼女さんの方はいかがかな?」

「美味しいですよ。結構好きです」

「良かった。若い人の意見も聞けて良かったよ。うちの若いのは、変わったのしかいないから」

「そうなんすね」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



2人は喫茶店をあとにし、スポーツ用品店へと来ていた。


「デートする場所がここって」

「仕方ないですよ。僕たち、中学生なんですから」

「まあな」


バスケットボールの商品が並んでいるところへ進む。


「それで、今日は何が欲しいんだ?」

「新しくバッシュでも買おうかと思って」

「早くないか?まだ半年も経ってないんだろ?」

「ちょっと気合を入れ直すためにも、自分のお小遣いで買おうかと思って」

「なるほどな」


2人は、レディース用のバッシュを眺める。


「どこのメーカーが良いとかあるのか?」

「まあ一応」

「じゃあ後は、デザインとかか?」

「そうですね。先輩ってバッシュ選ぶ時、どういう事気にしてます?」

「俺か?そうだなぁ…。基本ハイカットのバッシュを履くな。それが最低条件。後は、靴底って言うか、靴の裏だな。滑りにくい感じなのかとかも気にするぞ」

「結構、こだわり強いんですね」


霧崎は、いくつかバッシュを手に取り、試しに履いてみる。


「ん~。なんかイマイチだなぁ」

「そうなのか?」

「というかデザインがちょっと…」

「なるほどな」

「先輩のバッシュくれませんか?」

「足のサイズを今より2㎝大きくなったらくれてやる」

「冗談ですよ」


クスクスと笑う霧崎。


「ネットで探してみようかな」

「ある程度、そのバッシュの特徴を知っておかないと失敗するぞ」

「ですね。勉強になります」


2人は、バッシュの他にも見て回ることにした。


「先輩って、この前の練習で膝のサポーター駄目にしませんでしたっけ?」

「あっ、そうじゃん。ついでに買っていくか」

「先輩が一番、運動量多いんですから。身体とか大事にしないと駄目ですよ」

「はいはい」

「もうあなただけの身体じゃ無いんですから」


霧崎は、お腹をさすりながら、神門に優しく忠告する。


「馬鹿な事やってないで、さっさと行くぞ」

「待ってくださいよー」

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