第13話 マッサージ

全国大会を終え、夜桜中のバスケ部にも平穏が訪れた。

結果は、ベスト8で終わった。

唯一の3年生でキャプテンでもある三神希空は引退し、神門たち2年生を主体とするチームとなった。


「夏だなぁ」

「そうだな」


学校は、夏休み期間となっており、部活も午前中から行われている。

夜桜中の練習は、午前と午後の2部練習となっている。

今は、午前の練習を終え、休憩時間だ。

神門と香威は、体育館のステージの上で寝そべっていた。


「せんぱーい。隣良いですか」

「悠那か、好きにしろ」

「はーい。では、失礼します」


霧崎は神門の隣に横たわる。

男子と女子の練習メニューは、異なるのだが、練習時間は同じなのだ。

なので、女子バスケ部の霧崎がここに居るのは、当たり前みたいなものだった。


「暑いですねぇ」

「暑いなぁ」

「床、冷たくて気持ちいですね」

「気持ち良いなぁ」

「お前ら、部活って事を忘れてないよな…」


神門と霧崎がのんびりとした雰囲気を醸し出す中、香威は、2人の様子に呆れ、席を外す。


「というか、男子の方の練習きつそうですね」

「男子は、人数少ないからな。より体力づくりが重要なんだよ」

「ディフェンス練習も大変そうです」

「ファールで退場なんてしてみろ、すぐに形勢が崩れる」

「先輩って、主力メンバーですもんね」

「まあな」


夜桜中男子バスケ部が少ないにも関わらず、全国大会にてベスト8になれたのは、そういう練習をしているからだ。


「あと、気になってたことがあるんですけど」

「何だ?」

「どうして、先輩はキャプテンをしなかったんですか?」

「面倒くさいから」

「そういう人でしたね」


現在の夜桜中男子バスケ部のキャプテンは、香威あさひがしている。

その代わりに副キャプテンを神門煉が担っている。

しかし、彼は、副キャプテンという座すらも、面倒だと感じていた。



「先輩」

「ん?」

「うつ伏せになってください」

「何故」

「マッサージしてあげます」

「いや、いいよ」

「良いから、うつ伏せになってください」


霧崎は、真剣な表情で神門にうつ伏せになるよう促す。

実は、神門はここ数日、腰が痛むことがあったのだ。

本人は、「歳かな」と言ってごまかしていたが、霧崎は、違和感に気づいていた。


「今すぐ、うつ伏せにならないと…」

「ならないと?」

「先輩のお母さんに頼んで、花嫁修業を先輩の家で始めます」

「分かった。すぐにうつ伏せになろう」

「即答ですか!?」


神門は、霧崎の言った言葉が冗談では無いと知っているため、返事は即答だった。

霧崎の言う通り、うつ伏せになる。


「全く…」


霧崎は、神門の上に座り込み、腰のマッサージを始める。


「先輩って細いくせに、筋肉はしっかりついているんですね」

「脂肪がないだけだよ」

「女子に向かって宣戦布告ですか?」

「規模を大きくするんじゃない。それに、お前だってスタイルは良い方じゃないのか?」

「何ですか、セクハラですか?」

「褒めたのに…」

「最近は、褒めただけでもセクハラになりかねないんですから」

「そうですか」


それから、午後の練習が始まるまで、霧崎は神門のマッサージをしていた。

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