第11話 思い出
県大会を終え、全国大会まで1カ月といったところとなった。
しかし、バスケが全てでは無い。
彼らの本分は、学生なのだ。
「期末テストだなぁ」
「そうですねぇ」
「それで、何でここに居るの?」
「はい?」
神門と霧崎は、偶然、喫茶店で遭遇していた。
先に神門が来ており、テスト勉強をしていたのだが、いつの間にか霧崎が神門の向かい側に座っていた。
「いやあですね、テスト勉強をしようかなと思って」
「家でやったらどうだ?」
「鏡見て来てください」
「そうか、ちょっとお手洗いで見てくるわ」
「そう言って席を立たないでください。何でこういう時に頭のネジが緩くなるんですか」
「先輩になんて口の利き方だよ…」
2人は、各々注文したものを口にしながら、勉強をする。
神門の方は、2年生316人中、3位の成績。
霧崎の方は、1年生320人中、1位の成績。
2人ともかなり上位の方だった。
「先輩ってどうしてそんなに頭良いんですか?」
「後輩ってどうしてそんなに頭良いんですか?」
2人は軽口を叩きながら勉強を進める。
「せんぱーい」
「何だよ」
「飽きました」
「家に帰れ」
「ひどいです」
「というか、お前のその先輩呼びと名前呼びの違いって何なんだ?」
「んー」
神門の疑問に考える霧崎。
「気分ですかね」
「ああそう…」
「というか、先輩の方こそ。いつになったら名前で呼んでくれるんですか?」
「あー」
今度は、霧崎の疑問に考え込む神門。
「あんまり名前呼びに慣れてないからな」
「じゃあ僕だけ呼んでください」
「分かったよ、悠那」
「…意外にすんなり呼べるんですね」
「あ?」
「だって、先輩って女の子慣れしてなさそうだから」
「まあ否定はしないけど、普通に会話くらいできるぞ」
「なんか先輩って掴みどころないですね」
「よく言われるよ」
神門煉という男は良くも悪くも、自由で何者にも囚われない。
そんな男なのだ。
「そういえばなんだけど」
「何ですか?」
「悠那って何で俺の事そんなに気に入っているんだ?」
「また、急ですね」
「そうでもないだろ」
「そうですねぇ…。なにから説明しましょうか」
「そんなに込み入った事情なのか?」
「いえ、そういう訳では無いのですが…。以前、先輩に会った事があるんですよ」
「は?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
霧崎悠那がまだ中学校に入学する前…。
「迷子になっちゃったなぁ」
夜桜中の体験入学に来ていた。
「ここどこだろう…」
夜桜中は、県内屈指のマンモス校だ。
そのため、校舎も広く大きい。
「この教室は、生徒指導室…?」
『ガチャ…』
霧崎の前にある教室の扉が開かれる。
「失礼しましたー」
生徒指導室から1人の男子生徒が出てきた。
「ふぁぁぁぁ…。髪色がピンク色に見えるって言われても地毛だっつうの…」
身長は175㎝ほどで、細身。
髪の毛はやや長く、ミディアムウルフといった髪型だった。
「というか、髪型じゃなくて、髪色の注意って…」
気だるげにしている男子生徒こそ、神門煉だったのだ。
「あの、すみません…」
「ん?」
霧崎は、恐る恐る神門に話しかける。
「迷子になってしまって…」
「ああ、なるほど。私服って事は、あれか体験入学してきた小学生か」
「はい…」
「良いよ。どこに行きたいの?」
「1年2組の教室です」
「それなら、俺のクラスだな。良いよ、案内する」
「ありがとうございます」
これが2人の出会いだった。
「先輩って今、1年生ですか?」
「そうだぞ」
「じゃあ来年からよろしくお願いしますね」
「まあ機会があればな」
「はい、お願いします」
神門は、霧崎を1年2組の教室まで送り届ける。
「あれ、神門じゃない」
「奥村先生ですか」
「生徒指導室には行った?}
「行きましたよ。今更、髪色で注意なんて…」
「まあ仕方ないと思っておくことね。あなたは、全国大会にも出場するような人なんだから。夜桜中の代表なのよ。身だしなみは整えましょうって言いたいのよ」
「面倒くさいっすね」
「そう言わないの。ちゃんと地毛証明書は出してきたんでしょ?」
「そうですね」
「じゃあ安心」
神門と奥村先生が話していると…。
『キーンコーンカーンコーン』
学校の予鈴が鳴る。
「じゃあ私は、これから体験授業をしないとだから。練習はいつも通りのメニューをしてて」
「はーい」
「じゃあ、そこの君も空いてる席に座ってくれる?なるべく面白い授業にするから」
「はい!!。あの先輩、ありがとうございました」
「おう、授業頑張れよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「という事が、あったんですけど…」
「あー、そんな事もあったなぁ。あの日は、俺も機嫌悪かったからなぁ」
「というか、髪色とか髪型ってあの時から、あんまり変わってないですよね」
「まあな」
「もしかして、先輩って不良なんですか」
「成績優秀、部活は全国大会出場経験ありの奴を不良と呼ぶんだったらそうだろうな」
「髪色は地毛でしょうから、仕方ないですけど。髪型って毎朝セットしてるんですか?わざわざ外はねとかも作ってますけど」
「そうだな」
「結構、身だしなみとか気にしているんですね」
「当たり前だ」
テスト勉強を終え、2人は帰路につく。
「じゃあ私はこれで」
「気を付けて帰れよ」
「先輩こそ」
「おう」
2人は、途中まで共にし、それぞれの家へと帰った。
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