第44話 少しは休ませてくれん?
俺がスライディングするすぐ後ろで轟音を立てながら洞窟が崩落していった。
「あっぶねえ!! レイトに握り潰されるところだった!」
「心配するところ間違ってません!?」
「いやまあ死んだところで多分生き返るし」
さっきも『根性』のクールタイム中だったのに生き返ったし、もう一回くらいは生き返れるだろ。
それよりも──
「マジで痛いからさっさと離してくんない!?」
洞窟内から引っ張り出してきたレイトが魔物級のパワーで腕に引っ付いている。
マジで痛い。長男だったとしても耐えられそうにないわ。
腕を振って強引に落とそうとするが、爪を食い込ませてきて余計痛みが増すだけだった。
「はあ、まあ無事なだけよかったです。でもなんでレイトまで連れて来たんですか?」
「だって、こいつが魔物化した原因分かってないでしょ? 被検体を殺すなんて手掛かりをドブに捨ててるようなものだし。それに──」
「それに?」
「こいつにはちゃんと罰を受けてもらう」
ドサッとレイトが土煙を立てて転がる。
目に光はないがまだ息はある。
学園の生徒が十二座と手を組み犯罪を行ったのだ。王族の面子的にもレイトは一度引き渡したほうがいい。
まあ、そんな建前は置いといて。
こいつを『十二座』、その他黒幕の手掛かりにしたいのが本音。
「はあ、まあいいです。私の心配を返してください」
「え!? なんでよ?」
シュヴァリエは大きく息を吸う。
「なんでって自覚はないんですか自覚は!!?? あなた死にかけたんですよ!? 普通心配するのが婚約者でしょう!?」
「うっ……ご、ごめん」
まったくあなたっていう人は、とこぼしながらやれやれと首を振る。
「本当に自分の命を軽々しく扱わないでもらえますか……見てるこっちとしては気が気じゃないんですけど」
額に手を置きながら悩まし気につぶやくシュヴァリエの姿に思わず吹き出してしまった。
「なに笑ってるんですか」
「いやゴメンゴメン。初めて会った時、関わらないでくださいなんて言ってたシュヴァリエがここまで俺のことを考えてくれていると思うとね」
「む、昔のことは言わないでください!」
耳まで真っ赤に染めてむくれてしまったシュヴァリエに微笑みかけながら俺の、レグルスとしての生活に思いを馳せる。
俺がこの世界に来て、一度死んでから様々な人に出会うことができた。
シュヴァリエにリーナ、デュネブ、それ以外にも多くの人たちの間で揉まれ、敵対しながらここまで歩んできた。
その中にはもちろん裏切りや逆恨みが隠れていたりもしたけど、全体的にみればそんな感情、ただのクエストが増える原因でしかない。
死亡フラグに比べればどうってことない。
ゲームシナリオなんて俺の推しが死んでいる時点で全て変わってしまっている。
そこだけはマジで許せない。
こっちは強制的に呼ばれてんだぞ! そのくらいの優遇はあったっていいじゃんか!
でも、推しがいなくても
「シュヴァリエがいるんだよな……」
「なんですか! 私いない方がよかったですか!?」
「いや落ち着けって。ただいつも隣にシュヴァリエがいてくれるなってぼんやり考えていただけだから!」
「いつも隣にって婚約者なら当たり前です」
シュヴァリエはフンスと鼻を鳴らし、胸を張る。
「その当たり前がありがたいんだよ」
誰かが無条件で俺の側にいてくれる。そんな経験、向こうの世界では一部の人間にしか与えられなかった特権だ。
それをこうして享受させてくれるこの世界は俺にとって適性のある世界かもしれない。
「──さて、戻るとするか」
シュヴァリエとうなずき合い山を下ろうと歩き出す。
が、右足を引きずられ盛大にこけた。
「ってえ!? レイト!」
反射的に右肩に抱えていたレイトを怒鳴る。
いや、こいつじゃない!
肩の上からじゃ右足に手が届くわけがない。
恐る恐る後ろを振り返ると、小学生くらいの少女が無垢な目でこちらを見上げていた。
「えと……誰?」
「君、どこから来たの? ここは危ない場所だよ?」
少女はほとんど俺に密着するような形でなおも見上げる。
「にぃ、おなじ、におい、する。死のにおい」
「なっ……!? 何者だよ……?」
俺の問いかけを無視するようにスンスンと俺の服の匂いを嗅ぎ始めてしまった。
シュヴァリエに助け舟を求めたが彼女も彼女で突然の出来事に頭が追いついてないのか、マヌケな顔のまま絶句していた。
なら自分で確かめるしかないと、いまだに俺に引っ付いて匂いを嗅いでいる少女を観察する。
どこもかしこも未発達の身体にも恍惚とした表情を見せているあどけない顔にも特に魔族的な違和感はない。
ただ、密着された少女の身体からは体温を感じられなかった。
「お前、生きてる?」
俺の問いかけに少女は首を横に振る。
アンデットか。
いろんなゲームでおなじみのアンデットも、この世界では敵として登場する。
しかし、本来のゲーム内ではアンデットはただ生きている人間を襲うだけの知性のない魔物だったはず。
他の魔物かとも考えたが、このゲーム内にアンデットは人型しか存在していないはず。
アンデットであるのは間違いないと思うのだが、この少女は意思疎通ができてしまっている。
「名前は?」
「ポル。いきていたころは──」
次の言葉を聞いた瞬間、レイトとの戦闘の記憶などいとも簡単に吹き飛んでしまった。
「いきていたころの、なまえは、テミス。テミス、あんどろめだ……?」
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