第43話 まあなんとも締まらない決着
『自爆』の衝撃が壁面を揺らす。
余波で天井から砂煙が舞う。
「これでっ! やったか!?」
あ、まっずい! フラグ立てたわ!
俺の予感が的中したとでもいうようにレイトの雄叫びがとどろく。
「マジかよ……もう魔物ですらないじゃん……」
あのキメラでさえ『自爆』で即死していたのだ。
レイトは正真正銘の化け物に変わり果ててしまった。
「レグルスゥゥゥ!!!」
片腕は力をなくしたように垂れ、足を引きずりながらもまだ、俺を殺そうという意志は変わらないように見えた。
空の手のひらを天井に掲げる。
「ココデ! シネェェェ!!」
掲げた手を握りしめた瞬間、濁流が堕ちる。
レイトの真上にできた亀裂に呼応するように洞窟内のあちこちで濁流のカーテンが降ろされる。
レイトが水魔法で洞窟の周囲を流れる水脈を操作し天井を崩落させたのだ。
「お前が自爆覚悟な攻撃してんじゃねえよ!!」
足元で渦巻き始めた濁流に足を取られ、立っているのが精いっぱいだった。
「レグルスさん! 逃げましょう!」
振り向くとシュヴァリエが『エコー』を守るように水魔法を展開させ、濁流に抵抗している。
「先に逃げてくれ!」
「レグルスさんは!?」
「いいから、逃げて!」
シュヴァリエは何か言いたそうに見つめていたが首を縦に振った。
「『エコー』! しっかり背中に捕まっていてください! 『水面渡』!」
「捕まっていてください! わかったわ……!」
濁流の上をすべるように洞窟の入口へと駆けていく。
彼女たちが避難したのを確認すると、俺はレイトへ向き直った。
水脈が小さかったのか、洞窟が水で満ちるまでまだ余裕がある。
「決着をつけようか。自爆攻撃で相打ちだと寝覚めが悪いでしょ?」
『身体強化』の重ね掛けで踏ん張りながらデュランダルを構える。
俺のやる気を感じ取ったレイトもエンケラドスを持ち直す。
お互い相手の出方をうかがってにらみ合う。
「アアアアァ!!」
先に沈黙を破ったのはレイトだった。
エンケラドスの剣先を地面にこすりつけるように突進する。
憎悪満載の表情であることには変わらないが、その顔は幾分かこの状況を楽しんでいるようにも見えた。
「レグルスゥゥ!!」
『身体強化』と魔物化した膂力による力任せの切り上げ。
普通に受け止めようとすると剣ごと腕が吹き飛びそうになる攻撃をデュランダルの刃先を滑らせるように添え、受け流す。
まあ、さっきと同じことしてもじり貧になるだけだよな。
攻撃を受け流し、ダメージを押さえているはずなのに俺の腕はしびれて危険信号を発している。
『貴様、何に怯えている? 腑抜けた雑魚に成り下がったか?』
怯えてるって何にだよ! 今それどころじゃないんだけど!?
『オリオンとの手合わせのように突っ込めよ』
『根性』まだ発動できないでしょ。
「死ネ、死ネ、死ネェェェ!!」
相も変わらず雄叫びを上げながらエンケラドスを振り回すレイトをあしらうので精いっぱいだった。
レグルスの言うことも一理あるんだよなぁ。
何とか今は立ち回れているものの、疲労がたまってくるとどうしても隙が生まれやすくなってしまう。
レイト相手だと隙イコール死である。
死ぬんだったら一人よりも道連れの方が得策だ。
「──! やるしかないか」
ごめんシュヴァリエ。そっちに行けそうにない。
「おしまいと行こうかレイト! ここが俺たちの執着だ!」
エンケラドスをはじき返すと、すかさず懐に潜り込む。
天上を見上げるような切り上げ。
「レグルスゥゥゥ!!」
合わせるようにレイトがエンケラドスを振り下ろす。
その刃先は確実に俺の首に狙いを定めている。
迫りくるエンケラドスを無視しレイトの身体を斜めに切り上げたところで、俺の意識はなくなった。
☆
『おい。おい! 起きろ! 勝利したくせに溺れ死んでどうする!』
──なんだよ。うるさいな。
死後の世界までお前と一緒かよ。
『阿呆! まだ死んでないんだよ! さっさと起きろ!』
「がごぼぉ!? ゲホッゲホッ!! おぼれ死ぬ!?」
まあ、なんとも締まらない幕引きであるのは確かだった。
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