第22話 入学試験、勇者がグレた
「レグルスもがんばってください。同じクラスになれるといいですね」
そう言ってシュヴァリエはひらひらと手を振る。
今日、俺たちは王立魔法学園メルトダウンに入学するべく、試験を受けに来ていた。
王侯貴族や有力商人などの子息が在籍するこの学園は入学試験の成績によってCからSまでの級に振り分けられる。
学科も実技も優秀であることを証明されたS級には近衛騎士就任の優先権や官僚に優先的に就職する権利などの特典もあるらしい。
つまりこの入学試験でその後の人生の難易度が左右されるということ。
だから皆必死なのだ。
たとえそれが相手を侮る結果となったとしても。
「次! レグルス・クレイモアとレイト・タレスの実技試験を始める! 入れ!」
促されるままに向かったのは円形の闘技場。
古代ローマのコロッセオから観客席を消したようなその闘技場に二人分の足音が響き渡った。
レイト・クレスと呼ばれた男はニタニタと人の悪い笑みを浮かべながらこちらを値踏みするように見てくる。
ツンツンに尖らせた金髪といい人を舐め腐った態度といい繁華街の隅っこでイキってるチンピラみたいなやつだな。
「おい、お前。レグルスなんだよな?」
「そうだけど?」
前触れもなく名前を確認したレイトは俺の返事を聞くと爆発したかのように笑い始めた。
「お前があのレグルスか! おいおいおいこの学園に何しに来たぁ!? 金と権力で無能をくるんだような奴はこの学園にいらねぇんじゃねぇの?」
「そういうあんたはどうなんだよ? 初対面の奴に暴言吐けるなんていい性格してるな」
名前と声に既視感はあるが、シナリオ中でも見たことのないキャラクター。
だからこそ、予想がつかない。
性格がクソってことだけしかわからないのは腹立つな。いやな奴なのに対処がしづらいんだけど。
「フン、まあいい。てめえにはこの学園は門前払いがお似合いだよ!」
レイトが木剣をゆらりと構える。
ニタニタ笑う顔が弱者をいたぶるための加虐的な笑みに変わっていく。
まあどうせ自分が勝つとしか思ってないんだろうな。
実際はそういう奴ほど負けるっていうフラグがあるんだよね。
両者ともに剣を構えたことを確認して審判役の教員が開始の合図をした。
「これより入学試験を始める!! 攻撃は木剣と打撃のみ! 両者とも全力で戦うように! 開始!! レイトがんばれー」
「おい教員!! 俺のことも応援しろよ!?」
あの教員、試験結果も俺が不利になるように改ざんしそうなんだけど!?
抗議しようと教員の方に顔を向けた瞬間を狙っていたかのようにレイトが一直線に突っ込んできた。
「よそ見してる暇あんのかぁ!? 雑魚ぉ!!」
「雑魚って思ってんなら奇襲なんてマネすんなよ」
馬鹿正直に突き出された剣先を木剣の腹でなでるように受け流す。
オリオンに比べればどうってことのない単純でお粗末な剣筋。
いや元S級と比べる方が失礼か。
勢いに任せただけで剣術もへったくれもない剣を小手先だけでさばいていく。
「雑魚のくせになんでだよ!! 俺は「勇者」だぞ!? さっさとくたばれよ!」
「お前勇者だったの!?」
このゲームの勇者って黒髪でもっと爽やかな好青年だったはずじゃ……。
でもそうだレイト・クレスという名前は主人公の初期の名前だし、声もそのままだ。
ただ髪の毛が将来禿げることが心配になるくらいに金色に染まってしまっている。
「てめぇ脇役だろうが!! さっさと俺に尽くして退場しろよ!!」
身勝手な雄叫びと共にレイトはがむしゃらに剣を振り回した。
「脇役ねぇ」
防御に徹し、レイトが攻め疲れたころを見計らって彼の手から木剣を弾き飛ばす。
場外に落ちた木剣がカランとむなしい音を立てた。
「て、てめぇ……!」
問答無用でつかみかかってくるレイトの手を払いのけようとした瞬間、視界から彼の身体が消えた。
「『身体強化』は反則だろっ!?」
「攻撃魔法じゃなければいいんだよ!! さっさと死ね!!」
驚いたものの相手の攻撃は速度が上がっただけで単調な動きしかしていない。
顔面を狙ったパンチを半身で避けたのと同時に右足をレイトの脚に引っ掛ける。
うつぶせに倒れこんだ彼に馬乗りになりマウントをとった。
「クソっ、クソクソクソ!!! なんでっ! なんでなんだよ!! ゲームと違うじゃねえか!!」
こいつも転生してきたのか!?
だったらまあ俺を知っているのは当然だろうし自分が強い、主人公だから都合よく行けるって思うだろうなあ。
「そんなさあレベリングもしないで強くなれるわけないでしょ? そのくらいわかってんだろ」
「てめえに言われる筋合いはねえよ!! 魔法さえ使えればこんなもん……!」
瞬間、レイトの身体を中心に爆発が発生する。
熱さは感じないが爆発と共にまき散らされた物体が俺の身体をハチの巣にしていった。
『再発動まで残り3分だ』
今ので即死だったか、あっぶねえ。
次の攻撃を警戒してレイトを中止するが一向に動かない。ピクリともしない。
「違反を行ったため昏倒させました。まあ彼も合格なのですが」
「違反したのに合格はさすがにひいきしすぎじゃないか?」
本当にこの世界あいつ中心に回ってる?
「あなたに倒されるまでの戦いは彼も優秀であったので学園長の許可が下りました」
審判役の教員が指し示す方向には全身を黒いローブで包んだ学園長らしい人物がたたずんでいた。
そして一言。
「君たちは最上級クラスに行ってもらうよ。転生者としてこの世界の発展に尽くしてくれたまえ」
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【あとがき】
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