第19話 元S級雰囲気クラッシャー
「レグルス君、また一段とやる気に満ちているようですが?」
「敵に舐められてるんでね。見返してやりたいだけですよっ!!」
中庭に木剣がぶつかり合う鈍い音が絶え間なく響く。
フォーマルハウト家から帰ってきた翌日から早速俺たちは鍛錬を再開した。
俺のやる気に応えてかオリオンははじめから二本の剣で戦っている。
どうやら本来の彼の戦闘スタイルは双剣を基軸にしているようだ。
絶え間のない剣撃を交えながらも俺たちの顔に汗は浮かんでいない。
「やはり腕が上がっていますよ!! やっと僕も楽しく鍛錬できそうです!! ですがまだ足りない!! もっと! もっと強くなりましょう!!」
「気持ち悪い顔すんなよ! この戦闘狂が!!」
一層苛烈になったオリオンの猛攻を受け流しながらカウンターを入れていく。
左手の剣をはじいたと思ったら次の瞬間には右の剣が的確に急所を狙ってくる。
今の俺の目では追えない速さだ。
何とか予測でしのげてはいるけど、ギア上げられたらきついかなぁ……!
諦めが混じりそうになるのをこらえて後ろに跳んだ。
「仕切り直しですか。本来は得策ですね。ですが……!」
俺を追うようにオリオンは地面を踏み込んだ。
俺の両足が地面についた瞬間、今度はオリオンに向かうように低くスライディングした。
頭をかすめる双剣を撫でるように沿わせながらオリオンの腹に剣先が突き出した。
一本取った……!
そう思った瞬間だった。
「『トリプルスター』」
オリオンの身体と剣先の間で三度爆発が起き、俺の腕ごと木剣が吹き飛ばされた。
「いやぁ。危ない危ない。先生なのに負けるところでしたよぉ」
「……いまのは、魔法?」
吹き飛ばされた衝撃でしびれた右腕を押さえながらつぶやく。
するとオリオンはマジックの種明かしをするかのようにウキウキで説明し始めた。
「今のはですねぇ『トリプルスター』と言いまして。僕のスキルですね。瞬間的に僕の魔力を三つの簡易爆弾として爆発させるんです」
攻撃スキルでは結構ありきたりな部類に入るけど、防御に用いるその練度、使うタイミング、発想力がけた違いだ。
シナリオ中でさえ攻撃にしか使われてなかったから見極めができなかった。
「だとしても今のは自爆覚悟の防御じゃないの?」
「自分の魔力にさらされたとしても体に魔力が戻っていくだけで害はないですから。今みたいな使い方もできるってわけです。どうです? 今のを踏まえてもう一戦しますか?」
「もちろん」
腕のしびれも取れた。反省もできた。ならまた実践だ。
そう意気込んで地面を強く踏み込もうとしたその時、屋敷の方から声がかけられた。
「オリオン様、今日から訓練に参加させていただきます。よろしくお願いします!」
「よろしく、シュヴァリエさん。ああ久しぶりに様付けで呼ばれましたぁ! どこぞの子息は呼び捨てかこいつ呼ばわりですからね」
こんなチャラい奴、様付けなくてもいいだろ。
「それは失礼ですねー。私の婚約者もそういうとこあるんですよー」
シュヴァリエもちらちらとこちらを見てくるんじゃないよ。メスガキムーブは心にくるからやめてくれ。
「「ねぇどう思います(か)?」」
「さあ鍛錬の続きをやろうかオリオン様シュヴァリエさん!?」
露骨に話題を変えようとした俺に対して食糧庫で腐った食材を見つけた時のような微妙な顔を二人して向けて来た。
「ええ……もう俺どうすりゃいいんだよ……」
☆
「ふぅ……そろそろ一旦休憩しましょうか」
「そうっすね、わかり、ましたぁ」
オリオンが俺に剣先を向けたままにこやかに言ったのを合図に俺は地面に倒れこんだ。
「今日一段と強くなかったかあの人……呼び捨て根に持ってんのかよ」
俺が全身で息をしているのに対してオリオンは汗を少しかいているだけで平然としている。
さすがに怪物級と渡り歩いてきた元S級とだけあって化け物じみた体力をしているらしい。
そんなオリオンとの差を痛感しながら息を整えていると急に視界に影ができた。
「お疲れ様です。お水用意されてたのでどうぞ」
「ありがとう。シュヴァリエ」
コップ一杯の水をのんでようやく呼吸が落ち着いてきた。
「生き返るー!」
「オリオン様とずっと剣を交えてましたもんね」
「代わる? 素振りだけで飽きない?」
俺がオリオンにメタメタにされている間、シュヴァリエは一人素振りをし続けていたのだ。
オリオンによると鍛錬の前に剣を自分の身体になじませる必要があるらしい。
俺はガニメデスの鍛錬で素振りをしていたおかげで免れたけど素振りってだけでも相当な体力を使う訓練になる。
ようやく力の入るようになった上体を起こし全身からの心地よい疲労感を味わっているとシュヴァリエがこちらをキョトンと見ていた。
「俺の顔に何かついてる?」
「いえ、そういうわけではないのですが。一つずっと解けない疑問がありまして」
バットエンドを見てしまったかのような思い詰めた顔をシュヴァリエはしていた。
覚悟を決めたかのように短く息を吐くと口を開いた。
「レグルス様が防戦重視の戦法をとっているのは私が弱いからでしょうか?」
「いや、そういうわけでは……」
一度火がついてしまったのか俺の言葉に耳を傾けずシュヴァリエは卑屈な思いを並べていく。
「もちろん私が未熟なことはわかっています。だからこそ今こうやって練習しているのですから。しかし私のせいでレグルスさんが防戦一方になってしまっているのならしばらく私から距離を置いた方がいいと思うんです。もともと政治的な婚約でしたしこれでも──ひへぇ!?」
うつむいて理屈を並べていたシュヴァリエの頬をつねる。
「あのさあもう自己肯定感下げるのやめない? 飽きたんだけど」
「へっ、へすが事実、じゃはいれすかぁ……」
「いーや、嘘が混じってるね」
俺の手から解放された頬をさすりながら恨みがましい目で見てくるが知ったこっちゃない。
「そもそも俺が防戦重視なのは自爆魔法を至近距離で当てるために誘ってるだけだし。それに政治的婚約だとか言ってるけどさぁ」
「事実じゃないですか」
確かに事実。
だけどこっちには原作知識というものがあってだな。
「あーもうなんで伝わんないかな。俺がここまでシュヴァリエと一緒に行動している理由、好意がある以外にある!? ないよね!? 以上、そういうこと!」
「なっ、こ、好意だなんてお付き合いも舞踏会も行っていない二人にありえません!」
なるほど、貴族らしくお見合いや舞踏会での出会い、からのお付き合いの過程がないから好意を抱かれるはずがないと思っているのか。
まぁ、なんというか……真面目か。
誤解を解くなら押していくのが手っ取り早いか?
推しと好意を持つ人間は異なるってこともわからせるか。
おもむろに立ち上がり、シュヴァリエの両肩を掴み顔を寄せた。
「これでも?」
「へっ、えぇ……! ち、近いです、よ……?」
小刻みに唇が震えているのは驚きかそれともこれからされることを予期してなのか。
鼻と鼻が触れ合う距離まで近づき──
ザッ……
足音に振り向くと気まずそうな顔でオリオンがコソコソと退散しようとしていた。
ギギッ、と音が鳴りそうなほど不自然な動きで彼の顔がこちらを向いた。
「あのーそういうのは夜にやってください? あと二人だけの時に」
「一生様付けで呼んでやらんわ。雰囲気クラッシャー冒険者」
「なんでですかぁ!」
騒ぐオリオンは放っておいて、寸止めされたことをどう言い訳しようかと振り返ると、耳まで真っ赤になったシュヴァリエがこちらを見上げていた。
「あの……本気、なんですね?」
「本気だよ」
「なら……今夜、私の部屋に来てください。色々お伝えしたいので」
話が急じゃない?
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【あとがき】
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