第17話 婚約者の親に会いに行きました

「実家から出頭命令が出ました。レグルスさんも同伴させろとのことです」


 気丈に顏をキッと上げこちらを見つめているのに対して、その瞳は細かく震えていた。


「日時と場所は?」

「即決ですか? 本当にいいんですか?」

「フォーマルハウト家当主から招待を受けたなら、立場が低い俺が断る理由もないでしょ」


 一度話してみたかったってのもあるしね。

 それに一連の襲撃全てにフォーマルハウト家が関わっている可能性があるからその手掛かりを探りたくもある。


 ただクレイモア領を離れるとなるとより一層襲撃の可能性を考慮しなければならなくなるのは確かだ。


「それにいざとなったら『根性』あるし、そもそもライバル貴族の息子に手を出すような馬鹿をする確率は低いでしょ」

「ですが実際あなたを襲撃した責任を取って私が婚約しているですよ!?」


 なんで必死な顔して俺に訴えかけてきてんだよ。


「シュヴァリエは俺に行ってほしいの? ほしくないの? どっちなの?」


 シュヴァリエははっと目を見開くとすぐさまうつむいてしまった。


「一緒に、来て、ほしいです……」

「了解。大丈夫、いろいろ対策してから行くから」


 ただ一つ懸念事項はゲームシナリオ内でフォーマルハウト家とクレイモア家の会談は存在していないということだ。


 同じ伯爵のライバル同士、たった一言が国を巻き込む闘争に発展することもある。


 失言脳にならないようにしないとね。


 ☆


 フォーマルハウト領、フォーマルハウト邸正面門──


 緻密に整備された木々が並ぶ庭園を進んでいく。


「いやあ、貴族の屋敷に入れるなんてねぇ。この仕事についてよかったですよ俺はぁ」

「うちにも毎日来てるでしょ」


 一見すると城と見紛うような屋敷を見上げオリオンがつぶやく。

 俺らの護衛として当主の方からオリオンに派遣命令が出ていたらしい


 なんで護衛が一番はしゃいでんだよ。


「普通に冒険者していたら両伯爵の屋敷に行くなんてありえませんからね。目に焼き付けておかないと」

「観光じゃないからね?」

「ええ。護衛の役割はきちんと果たしますとも。ほら、今も2回に一人、門の外に一人庭園に一人。私たちの会話聞かれていますよ」


 指さされた箇所に慌てて視線を向けると何者かが動く気配が感じられた。


 急に真面目になるじゃん……。

 ふざけた調子でいられると凄腕冒険者だってこと忘れるんだよなぁ。

 圧というか強者のオーラがないんだもん。


 きょろきょろと辺りを楽しそうに眺めているお気楽冒険者を放置してもう一人の同行者に目を向けた。


「顔が静脈透けるレベルで白いけど大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。だいじょうぶです。覚悟はできています」


 蝋人形のように正面を向いて固まったままシュヴァリエは小刻みに震えていた。


 親に会うだけで覚悟いるのか。


 俺が知っているフォーマルハウト当主は娘に甘く、過保護で娘が惚れた主人公に試練を与えたけど難なくクリアされて娘をお持ち帰りされてしまうなんとも不運な父親だったはず。


 娘にも嫌われても恐れられてもいなかったはずだが、シュヴァリエのおびえ方を見るに性格が変わったか。

 はたまた当主以外のことでおびえているのか。


 どちらにせよ彼女の緊張をほぐしてやらないと屋敷に入るまで持ちそうにない。


 何かからかいでもすれば治るかと口を開こうとした。


「大丈夫だいじょうぶ……。何かあればレグルスさんが代わりに死んで何とかしてくれるはずです」

「俺は身代わり人形じゃないんだけど!?」


 その心持ちで緊張ほぐれるならそれでいいよもう。


 屋敷の入り口に到着すると使用人に連れられるまま応接室へと向かう。


 屋敷の中は全体的に青色を基調としていて薄暗いがドアノブや鏡のような小物に施された彫刻が浮かび上がり神秘的な雰囲気を醸し出している。


「俺は外で待っていますね。護衛の分際で会うわけにはいかないので」


 応接室の前でオリオンはそう言ってドア横の壁にもたれかかった。


 俺たちは互いにうなずきドアノブを回した。


「失礼しま──」

「シュヴァリエー!! よく帰ってきたなぁー!! 体調は!? 向こうの生活は不自由ではないか!? 足りないものは用意するからな!?」


 扉を開けた途端、シュヴァリエにむかって一直線に飛ぶようにきた中年を俺は呆然と見つめていた。


 多分、多分だけどこの人が当主、なんだろうな。

 服の上からでもわかるほど盛り上がった筋肉にザクサの鍛冶屋のおっさんよりもよほど鍛冶屋っぽい強面……確かに当主その人だ。


 ただここまで恥じらいがないのは想定外だったな……。


 シュヴァリエですら抱き着かれた状態で固まってるし。


「あの、レグルス・クレイモアです」


 俺の声を聴くや否やでれていた顔が真顔に戻った。


「君がレグルス君か。そうだな仕事は先に終わらせよう。そこから親子の時間だ」

「抱き着いたまま話さないでもらえますか!? レグルスさんも何か言ってやってくださいこの変態に!!」


 変態に関わりたくないです。


 当主は少し名残惜しそうにシュヴァリエから離れるとデスクに座った。


「シュヴァリエ、君は少し外していてくれ。彼と二人で話がしたい」

「わかりました。お父様、失礼のないようにしてくださいね」


 シュヴァリエは当主がひらひらと振る手をにらみつけると応接室から出ていった。


「それでだなレグルス君。まずは自己紹介といこう。私は伯爵位、フォーマルハウト家当主ルイ・フォーマルハウトだ」


 デスクの上で組んだ手の少し上からこちらを見つめる目は先ほどとは違い鋭い眼光を放っている。


 早速だがレグルス君、正直に答えてほしい」


 そう言うとデスクの引き出しから紙とペンを取り出し何やら書き始めた。


「君、これだろ? 正直に答えてくれよ」


 紙を顔の高さまで掲げる。

 そこに書かれていたのは──


『転生者』


 ──────────────────────────────────────


【あとがき】


 投稿頻度が変わります!

【毎日12時40分ごろに一話ずつ】投稿になります!

 よろしくおねがいします!!


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