第13話 海獣のエコロケーション

「そうはさせないヨ。それはこちらの獲物だ。手出し無用だヨ。『剣姫』」

「『クジラ』に『エコー』……!? なんで、俺を狙ってんだよ……!?」


『クジラ』は愛用の針のようなステッキをもてあそびながら、『エコー』は無表情で身体を揺らしながら勝ちを確信したかのように悠然と暗闇から姿を見せた。


「まさか君も狙ってたなんてネ。でも彼の首は僕らのものだ。そこをどいてくれるかな」

「どいてくれるかな。彼を戦闘不能にしたのは、わたしたち。邪魔」


 シュヴァリエの武器は飛ばされた。

 俺も痛みでまともに立っていられない。


 魔法でシュヴァリエに殺してもらう手もあるけど詠唱するには相手が近すぎる。

『クジラ』と『エコー』に殺されるのは復活した後、至近距離に敵がいてまた殺される。


 なら──


 シュヴァリエに近づきささやく。


「自爆魔法を防げる魔法はある……!?」

「えっ!? あ、ありますけど」

「俺が『今』って言ったら発動してくれ」

「こんな状況でふざけるはずないですよね……わかりました」


 痙攣する脚に何とか力を入れ立ち上がる。

 押さえてはいるが肩の流血は止まりそうにない。


「まだ戦う気かい? 完全な奇襲を受けてボロボロなのにネ」

「ボロボロなのにね。早く、しんで」

「そうかいそうかい。『十二座』が二人も出てきて俺一人倒せないとはねぇ」

「負け惜しみはよしたまえ。もうすぐ死ぬんだからさ!」


『クジラ』が地面を大きく踏み込む。

 至近距離まで約1秒。

 一言発するには十分な時間。


「シュヴァリエ! 今!」

「『水泡鎧』!」

「『自爆』!!」


 シュヴァリエの身体を水流が包み込んだのと同時に俺の身体が爆発する。


 レグルスからはたった一言、

『デュランダルの特性がわかるといいな雑魚』


 アドバイスだから暴言だって怒れねぇ……!


 爆発で距離は開いた。体勢は立て直せる。


「大丈夫!?」

「はい!! 誰ですかあの方たち!? お知合いですか!?」


 面識はないけど知ってはいる。


『クジラ』と『エコー』はどちらもゲーム内の敵組織『十二座』の幹部だ。

『クジラ』は名前の通り水魔法、『エコー』は風魔法を用いて主人公に立ちふさがっていた。


 当時、『エコー』と関係を持つルートが存在しなかったため一部の変態たちが怒り狂っていたこともあった。


 だがしかしレグルスとの絡みは一切ない!!

 関係を持つ、というか『十二座』との会話すらしていないのである!!


 やっぱり、俺が転生したから世界が狂ったか?

 それとも俺がシュヴァリエとの死亡フラグを乗り越えたから狂ったか?


「水と風魔法だ。それと『クジラ』が前衛、『エコー』が後衛。それだけ頭に入れといて」


 シュヴァリエにアドバイスを残し彼女の前に立つ

 デュランダルを構え、砂埃の中に目を凝らす。


『自爆』でダメージ食らっててくれないと困るなぁ。


 立ち込めていた砂煙が一瞬のうちに吹き飛ばされた。


「ゴホッゴホッ、助かったヨ『エコー』。まさか自爆してくるなんてネ」

「なんてね? まかせて。早く、前いって」

「どいつもこいつも人使いが荒いねぇ。お兄さんガリガリになっちゃうヨ」


 そこに立っていたのはけだるげに土埃を払う『クジラ』と彼を守るように前に出ていた無傷の『エコー』


『エコー』の周囲には壁のような気流が渦巻いている。


「レグルスさん!? 効いてませんよ!?」

「いやあ、やっぱ『エコー』の『山風壁』どうにかしないとなぁ」


 魔法、特に風を伴う魔法に対しては『山風壁』は絶対的な防御を誇る。

『自爆』も分解してみればダメージ源となるのは爆風だ。


 つまり俺とは相性が悪い。


「君たちボーっとしている暇はあるのかい?」


『エコー』と共に屋根上まで跳びあがると『クジラ』は散弾のように水弾を打ち出す。


 丸腰のシュヴァリエをかばうように立ちデュランダルを構える。

 致命傷となる部分の被弾は避けられたが四肢の末端には切り傷が着実にその数を増やしている。


 一発が軽いのが厄介だな。着実にこちらの体力と痛覚をえぐってくる。


 被弾を恐れず突っ込むのもアリだけど至近距離まで近づくころには仕留めるパワーが残ってなさそうなんだよな。


「シュヴァリエ! 剣とってくれば戦える!?」

「いけます!!」


 そう言うとシュヴァリエは飛ばされた剣のもとへ走っていった。

 シュヴァリエが無防備な分俺が受けきらないと!


 そう、屋根上をにらみつけると『クジラ』は肩をすくめて、


「抵抗しないでもらえるかな。君たちがプロの殺し屋に勝てるわけないんだヨ。長居はしたくないから早く死んでくれたまえ。『水鯨』!!」


『クジラ』が頭上にステッキを振り上げる。

 彼のステッキの先から生み出されたのは月光に照らされた鏡面のような鯨。


 滝のような水を溢れさせながらその体が生成されていく。


「でかすぎない? 野次馬が来ると思うんだけど」

「大丈夫だヨ。そいつらごと君も殺すからネ」

「大丈夫じゃないんだよな……」


 やけくそ気味にデュランダルに魔力を流し防御の構えをとる俺の頭上に覆いかぶさるように鯨が墜ちた。


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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